新米を食卓へ。産地の想いを届ける精米店
先代から受け継ぐ、緻密な精米作業
1930年に創業した「小池精米店」。現在は小池さんを含め4人で切り盛りするこの店の魅力は、商品のほとんどが実際に産地に出向いて仕入れる“生産者の顔が見えるお米”であること、そして、先代から受け継いだ精米技術にある。
今ではボタン1つで完結する精米機も多くあるが、小池精米店ではお米の状態に合わせて緻密に調整した精米工程で、お米の魅力を最大限に活かすのだ。
まずは混米機で玄米を混ぜ合わせる。違う品種を混ぜることもあれば、同じ品種でも袋ごとに味が違うので混ぜて味を調整することも。混米作業が終わると石抜き機という機械で、小石などの異物を取り除く。その後いよいよ精米作業に移る。
「精米は、平たく言えばぬかを取ること。玄米同士を擦り合わせて摩擦で精米する方法と、もう1つは砥石に当てて研削する方法があります」。
使用する精米機は、小池さんが先代から受け継いだ30年の歴史を持つ代物。お米の状態に合わせ、絶妙なパワー調整が可能だ。摩擦の強さ、研削の強さ、そしてお米が流れてくるスピードを調整することで緻密に精米ができるそうだ。
「品種はもちろん、季節や穫れた年によって出来具合が違います。どのようなお米でも最適な状態になるよう、細かに調整しているんです。そして見た目での判断も欠かせません」と、小池さん。
精米時に注意しているのは、削り過ぎと割れ。お米のでんぷん層とぬか層の間にある亜糊粉層(あこふんそう)には、旨みや甘みのもととなる酵素が含まれる。この亜糊粉層を削らないようにすることと、お米が割れてしまわないように微調整を重ねてこそ、お米が本来持つ美味しさが引き出される。
最後に専用機械で色彩選別を行う。
「米は農産物ですから、中には綺麗な白米ではないものもあります。色彩選別機を通すとお米の色を区別し、変色したお米があればエアーで飛ばしてくれます」。
このように細かな調整を行い丁寧に精米されたお米が、街の飲食店や家庭へと届けられるのだ。
さらに「小池精米店」では顧客のニーズに合わせてお米をブレンドし、精米する“オーダーメイド精米”もおこなっている。寿司屋や料亭、焼肉店など、特にお米にこだわりを持つ飲食店からのオーダーが多いという。料理人が求める理想のお米を、小池さんの知識と経験を基に提案するのだ。
土地の気候が生み出す、様々なお米の味わい
一般的に9〜10月頃に収穫され、その年のうちに精米、袋詰めされたお米は新米と言われる。収穫時期のほかに、産地ごとに味わいの特徴はあるのだろうか?
「同じ品種でも地域や天候など、多くの要素によってお米の味わいは変わります。とは言え、その年の出来具合によって違うため、地域ごとのお米の特徴は一概には語れません」と、小池さん。
「コシヒカリ」のように全国的に生産されている品種もあれば、産地が限定的な品種もある。地域ごとにさまざまな品種が見られる理由のひとつが、稲が“短日植物”であることだ。
「“短日植物”の特徴は、日照時間が短くなると穂を実らせることです。例えば緯度が高い北海道では、なかなか日が沈まないため一般的な品種のお米は生産できません。『ななつぼし』は北海道の日照時間に合わせて品種改良されたお米なのです」。
五ツ星お米マイスターに聞く、美味しいお米の共通点
日本米穀商連合会が認定する「お米マイスター」の最高位資格「五ツ星お米マイスター」を有する小池さんに、美味しいお米の共通点を尋ねた
「旨みがあるか、ないか。そこから先は好みの問題です。あるお米屋さんが話していたのですが『お米は絵画のようなものだ』と。丁寧に作られたトップクラスのお米であれば、そこから先は好みであり『ゴーギャンか、ピカソか』と語るようなものです」。
好みの問題とはいえ、“プロのお墨付き”のお米を1度は食べてみたいもの。
「どれもおすすめしたいですが、珍しいものだと三重県の『結びの神』。粒が大きくてしっとりしていて、さっぱりし過ぎず、優しい甘さを感じられます。個人的におすすめなのが『にこまる』という、四国や九州で多く見られる特別栽培米です。この『天空の郷』が生産されている高知県本山町では、とても美しい棚田が見られます」。
産地でお米を選ぶ人もいれば、栄養価で選ぶ人もいる。健康志向が高まる今、食卓に玄米を取り入れる人も多いだろう。精米方法でお米の栄養価はどのように変わるのか?
「糠が残っている状態の玄米は1番食物繊維が多く、ビタミンEや鉄分、ミネラルも含まれます。当然ですが、削れば削るほど糠を取ることになるため、その栄養素も失われます」。
しかし、玄米は消化しにくいので、身体に合わない人もいるので注意が必要だ。「まずは5分づき米から試すことをおすすめしています」と、小池さん。
分づき米とは、白米を1割の精米率とした時の糠層の割合である。3分づき米、5分づき米、7分づき米など、数字が小さいほど玄米に、大きいほど純粋な白米に近くなる。
美味しいお米の魅力を最大限に活かすには、保存方法や炊き方にもちょっとした工夫がある。お米を買ったら冷暗所に密閉した状態で置くのが基本だが、加えて吸水時間も重要だ。
「水をしっかり吸収させることで、お米の旨味を引き出すことができます。炊飯器でも土鍋でも、白米であれば最低1〜2時間は吸水させることが大切です。私はいつも6時間かけて吸水させていますよ」。
1人でも多くの人にお米の魅力を届けたい
父から受け継いだ精米技術と精米機、そしてお米への愛情を持ち続けて約20年。最近、米不足が話題になったが、「お米の消費量が下がり、農家も生産を抑えるようになっていたことが背景にあります。急な買い占めにより、供給が間に合わなくなったのでしょう」と小池さんは話す。
小池さんが今後掲げる目標は「1人でも多くの人に、お米に興味を持ってもらうこと」。お米の魅力を伝えるべく、これまでにもSNSを活用したり、地域でのイベント活動に取り組んできた小池さんは、「私がずっと持ち続けているテーマです。美味しいお米を食べたいという人が増えるよう、これからも活動していきたいと思います」と、微笑んだ。
小池さんが自ら日本全国の産地に足を運んで仕入れた様々なお米の魅力が、今日も表参道から発信される。