季節限定のお楽しみ。40年以上愛されるマスカットの和菓子
「ひとつぶのマスカット」について、おすすめポイントを紹介しよう。
誕生は1979年。もとは地元・三原市の夏祭りのお土産物
「ひとつぶのマスカット」はもともと、創業者が毎年8月に広島県三原市で開催される「やっさ祭」のお土産物として作り出したお菓子だった。今では全国的に知られる銘菓に。
契約農家が朝摘みするマスカット・オブ・アレキサンドリアを使用
「ひとつぶのマスカット」には、濃厚な香りを持つマスカット・オブ・アレキサンドリアを使用。年々生産量が減っている希少品種だが、岡山県の契約農家と協力して数を確保している。
一粒ずつ丁寧に手で包む
製法は40年以上変わらず、房から果実を摘み取るところから求肥で包むところまでほぼ手作りする。
創業者が生み出したモダンな和菓子
広島県三原市で創業した共楽堂の本店は、地元に愛される昔ながらの和菓子店。「ひとつぶのマスカット」をはじめ、“旬”の素材のおいしさを主役にした和菓子が人気で、現在は全国に15店舗を構えている。
全国進出のきっかけとなった看板商品「ひとつぶのマスカット」を生み出したのは、共楽堂の創業者であり、代表・芝伐敏宏さんの祖父。地元の夏祭り「やっさ祭」のお土産として、1979年に発売した。40年も前の時代に、こんなにモダンな和菓子をどうやって思いついたのだろうか。
「山梨県に『月の雫』という、甲州ぶどうを砂糖でコーティングした郷土菓子があるんです。若かりし頃これを食べたおじいさんは、『おいしい!』と、似たようなものを試作するも、上手く行かなかったそうです。岡山県で和菓子の卸の会社で働いていたおじいさんは、そこで小さいものを薄く求肥で包む技術を習得。岡山のマスカットを求肥で包むことを思いつき、この和菓子が生まれました」
その後、家業を引き継いだ芝伐さんが「ひとつぶのマスカット」と改名。県外にも広めようと、全国の百貨店で催事販売を続けた。
「本当は常設店舗を出店したかったのですが、当初は相手にしてもらえず、催事を10年間くらい続けましたね。お客様にはすごく好評をいただいて、最終的には目標だった店舗出店も果たしました。おじいさんも天国で喜んでくれているといいのですが」と、芝伐さんはこれまでの軌跡を振り返る。
希少なマスカット・オブ・アレキサンドリアを一粒ずつ手包み
「ひとつぶのマスカット」に使用するマスカットは、マスカット・オブ・アレキサンドリア。他の品種に比べて圧倒的に香りが濃厚なので、仕上げた時に一番おいしいという。現在日本での生産量のほとんどが岡山県産だが、実は生産者が減っている。それでも芝伐さんはマスカット・オブ・アレキサンドリアにこだわり続ける。
「年々入手困難な品種になってきていますが、40件ほどの農家さんと契約して、岡山県から朝摘みのマスカット・オブ・アレキサンドリアを届けてもらっています。甘い求肥とバランスが良いのは、糖度が低く酸味があるマスカット。本当は種なしが食べやすいのですが、種がないと香りが弱くなるので、種の粒を減らすよう農家さんに調整して栽培してもらっています」
製造方法は発売当初から変わらず手作り。果実を傷つけないように、房から丁寧に取ったマスカットを、薄い求肥で一粒ずつ包み、仕上げにほどよく乾燥させれば完成だ。もったいないような気もするが、思い切って一口で食べるのが芝伐さんのおすすめ。口いっぱいに弾ける果汁をたのしんでほしい。
「ひとつぶのマスカット」が食べられるのは、マスカット・オブ・アレキサンドリアの“旬”の4月末から9月頃まで。製造日から常温で9日間日持ちする。また8月からは近年人気のシャインマスカットを使った「ひとつぶのシャインマスカット」、7月半ばから9月にかけては「ひとつぶのピオーネ」も登場するので、食べ比べするのもおもしろそうだ。
のし代わりのユニークなオリジナル短冊は、芝伐さんデザイン
共楽堂では贈り物にぴったりの、面白いサービスがある。それがのし代わりに付けることができる「オリジナル短冊」だ。シンプルな「ありがとうございます」から、「帰省みやげ」といった細かいシチュエーションのものまで、言葉とイラストでデザインされた短冊は現在35種類。すべて芝伐さんが書いているのだそうだ。
「僕はポップを書くんですが、別に字が上手なわけじゃないんです。だけどなんでも胸を張ってやれば、不思議と味のある字にみえるんですね。こだわりはカラーコピーではなく、塗り絵になっているところ。線だけ印刷して、店舗スタッフがそれぞれ色を塗っているんですよ」
千葉と渋谷にお店をオープンする際に始めたこのサービス。温かみのある手描き短冊が、他店にはない共楽堂の個性になった。気持ちばかりの贈り物をしたいけれど、のしではちょっと堅苦しすぎる。そんなときにこのオリジナル短冊はちょうどいい。
今年で創業90年を迎えた共楽堂。「ひとつぶのマスカット」しかり、これからも素材のおいしさを全面に出した、“直球”な和菓子を届けていきたいと芝伐さんは話す。
「コンセプトは『旬果瞬菓』。いろんな素材を組み合わせるのではなく、素材の一番おいしい瞬間を閉じ込めて、その一つの素材だけをガツンと味わうのがうちの和菓子です。岡山の白桃もおいしいし、まだまだ商品にしたい素材がたくさんありますね」
マスカット・オブ・アレキサンドリアのおいしさをギュッと閉じ込めた「ひとつぶのマスカット」。夏の便りに、マスカット好きのあの人へ贈ってみてはどうだろうか。