昔ながらの製法でつくられる鰹節の原形、潮かつお
カネサ鰹節商店の「潮かつお」について、おすすめポイントをご紹介しよう。
お正月を祝う縁起物として
潮かつおは豊さと家内安全、子孫繁栄の願いを込めて神に奉納されてきた縁起物だ。新しい年に、相手の幸を願った贈り物に選びたい。
塩と季節風がつくりあげる味わい
カツオに与えるのは塩と田子の季節風のみ。ゆっくりと乾燥しながら⿂のタンパク質の熟成発酵が進んでうまみが凝縮され、まるで魚版 “⽣ハム”のような食べ応え。
日本人とカツオの歴史的な関係
カツオは早春に日本南岸に姿を現し、広い地域で漁が可能な回遊魚。縄文時代の貝塚からもカツオの骨が出土しているほど、日本人は太古の昔からカツオを食べてきた。回遊によって水揚げが一時期に偏るカツオの保存性を高めて流通させ、一年を通して食べられるようにするために、塩漬から焙乾、カビ付けといった鰹節の技術が徐々に発展していった。
「潮かつお」は、鰹節より古い加工法でつくられており、鰹節の起源とされるものだ。
「内臓を取り出して切り込みを入れたカツオをまるごと、地下1000メートルからくみ上げた水と塩だけを使い、10日から2週間ほど漬け込み、3週間日陰で吊して乾燥させます。お正月の神棚に飾る縁起物として地元では『正月魚(しょうがつよ)』とも呼ばれ、私たち田子地区では受け継いできました」と語るのは、カネサ鰹節商店の5代目・芹沢安久さん。
年末年始の食卓を彩る、縁起の良い“年取り魚”といえば、東日本ではサケ、西日本ではブリが代表的だが、それらを塩加工した新巻鮭や塩ブリと並んで、「潮かつお」も同種の文化であるといえよう。冷凍技術のなかった時代、塩加工されて海から遠い地方まで運ばれ、そのあいだに魚のタンパク質の熟成発酵が進んでうまみが凝縮されていく。生ハムやチーズのように、発酵の知恵が詰まった食品でもある。
郷土の風習として残ってきた田子の「潮かつお」
西伊豆の田子地区におけるカツオ加工の歴史は古く、すでに奈良時代には潮かつおの原形といえる「荒堅魚」を朝廷に納めていたという記録が残っている。また1800年頃には、本枯れ鰹節の伝統製法、手火山式焙乾法(てびやましきばいかんほう)を確立。江戸の魚河岸では「田子の職人がつくる鰹節ならすべて買う」といわれるほど、その技術は高い評価を受けていた。
「田子節が売れに売れた一方で、やがて『潮かつお』は田子では特別な意味をもちました。カツオ漁船の船主は、神社に『潮かつお』をお供えしたのち、新年の乗り初めの宴会で船員たちに焼いて振る舞ったのです。それが『今年も一年雇用を保証します』という証であり、神様を通して誓いを立てる強い契りの品となったのです」と、芹沢さん。
正月までにつくって神棚に上げて清め、三が日が明けたら家族や近隣の人々とわけあって食べる。おそらく、各地でつくられていたカツオの塩蔵品がここ西伊豆の田子地区にだけ残されたのは、そのように単なるたべものから“ケガレを祓う文化”へと変化したからではないかと芹沢さんは分析する。米づくりが盛んな土地では豊作を願うお供えとして鏡餅が生まれたように、「潮かつお」には人々の豊漁と家内安全、子孫繁栄への願いが込められている。
「潮かつお」のおすすめの食べ方
この「潮かつお」づくりは11月の限られた時期のみ。毎年400〜500個ほどの限定生産であり、これまではほとんどが地元で消費されてきた。このまま伝統を絶やしたくないという5代目の願いと、「どんな味か知りたい」という消費者の声によって、藁飾りをまとった一本物だけでなく、ハーフサイズの半身と、食べやすくスライスした真空包装商品の発売も開始した。
芹沢さんにおすすめの食べ方を教えていただいた。
「塩抜きしていない保存食ですので、塩分濃度は約16%と非常に塩辛いです。ですので、醤油代わりや梅干し代わり、うま味調味料のように使っていただくといいと思います。とくにご飯との相性がよく、お米の甘みを引き立ててくれますよ」とのこと。
また、日本酒好きならアテとして、ナイフで薄くスライスしてプロシュート風に。サラダやちらし寿司など、食酢を加えるとマイルドで食べやすくなるそうだ。そのほか、お茶漬けやおにぎりの具、卵かけご飯、うどんなどにトッピングするのもおすすめしたいとのことだ。
かつて日本各地でつくられていたカツオの塩漬けだが、今残っているつくり手は田子地区の数店舗のみ。いにしえの食文化を、ぜひ味わってみてもらいたい。