「春の果実 柑橘」
東京・神楽坂で全国の“旬”野菜を取り揃える八百屋「瑞花-suika-」を営みながら、人を元気にする食について伝えている矢嶋文子さんが、春に食べたい「柑橘」の目利き方法と美味しい食べ方を教えてくれた。
柑橘の酸味が春の身体を目覚めさせる
オレンジ色や黄色がまぶしい柑橘類が“旬”を迎える春。一口に「柑橘」といっても、いわゆるみかんのような甘い味わいのものから、レモンや柚子、すだちなどの香りや風味を味わうものまで、その種類は900種にもおよぶという。
2月4日ごろの「立春」を迎えると、季節は徐々に冬から春へと移り変わる準備を始める。「立春」から「春分」までの間に吹く強い南風“春一番”が吹いたら、それが春の始まりの合図だ。そうした二十四節気(一年の季節を24に区分するもの)の移り変わりとともに、植物である野菜の“旬”や私たちの身体の要求は変わっていくと考えている矢嶋さん。
「春一番が『春だよ〜起きて〜!』と木々や土を揺らすことで、動物や植物たちが春を迎える準備をし始めます。そして2月19日から『雨水』という季節に入り春の雨が降ると、本格的な目覚めの時。もちろん人間も動物なので、自然のリズムで身体が目覚めたくなってくるんです」。
そんな自然の流れで春を感じ始めた時に食べたくなるのが、この時期に“旬”を迎える柑橘たち。
「柑橘ってまず香りが良いですよね。フレッシュな香りを嗅ぐだけで気持ちがすっきりとします。また柑橘の酸味には、身体の中を刺激して血のめぐりや代謝を良くし、冬の間に溜まった老廃物を外に排出してくれる効果があります」。
形は丸く、ずっしりと重みのあるものを選ぶ
種類ごとに違った食感やジューシーさ、酸味と甘味のバランスが楽しめる柑橘。その目利きポイントは種類によらず共通だと矢嶋さんは話す。
・てっぺんのヘタから見た時に、均等な丸い形になっている
・見た目よりもずっしりと重量感がある
・皮にはツヤと張りがある
また、「瑞花」に並ぶ柑橘の中から矢嶋さんおすすめの3種を選んでもらい、その特徴について教えてもらった。
甘平(かんぺい)
「鮮やかな皮のオレンジ色からも想像できる通りとても味が濃厚で、そのまま手でむいて食べちゃうのが一番美味しい。糖度が高いのでキュッと甘く、食感はしっかりしていて、噛めば噛むほどジューシーな美味しさが口の中に広がります。“旬”は1月の後半〜3月頭頃まで」。
サマー清見
「お日様のようにまぶしい色が綺麗な、みかんとオレンジをかけ合わせた柑橘。すっきりとした味わいで果汁もたっぷりなので、ジュースを飲むような感覚でさらりと食べられます。3月から初夏にかけて“旬”を迎えます」。
河内晩柑(かわちばんかん)
「果肉はしっかりとしていて、例えるならば“和風グレープフルーツ”のような柑橘。“旬”は3月ごろからで、グレープフルーツほど苦味は強くなく、さわやかな酸味と甘味のバランスが良い上品な味。果汁も豊富でとてもジューシーです」。
柑橘と春野菜でつくる、身体が喜ぶサラダ
矢嶋さんは、河内晩柑の果肉と果汁をたっぷり使ったレシピを紹介してくれた。菜の花やうどなど、春の野菜もふんだんに盛り込んださわやかな味わいのサラダだ。
「柑橘の酸味に加え、菜の花の苦味も身体を刺激してくれます。香りの良いうども、上に向かってぐんと伸びるアスパラガスも、エネルギーをたくさん持っている『芽吹き野菜』。そういうものを食べることによって、身体のめぐりを良くする効果が得られます。春の身体にうれしいサラダです」。
身体のめぐりを良くして暖かい季節を迎える準備
酸味のある柑橘や苦味のある山菜など、春に“旬”を迎える野菜や果物は、程よい刺激で身体を目覚めさせ、余分な老廃物を排出し、身体をすっきりと整えてくれる。またそれは、太陽がさんさんと降り注ぐ暑い夏を、元気に迎えるために必要な準備でもあると矢嶋さんは話す。
「春のうちにデトックスをしておくと、汗をかきやすいように身体が整うので、夏を楽に迎えられます。だから春は柑橘をたっぷり食べてほしいんです。そのまま食べても良いし、今回紹介したようなサラダや肉料理などに使うのも良いですよ。自然の恵みとともに、春の訪れを楽しんでください」。