美しい三国の海底で育つ 真っ赤な甘エビ
三国町の冬の味覚といえば越前ガニが有名だが、カニと並んで絶品と評され名物となっているのが「甘エビ」である。正式名称は「ホッコクアカエビ」と言い、水質の良い海底に生息している。三国町にある三国港は1959年頃に初めて「甘エビ」を水揚げした発祥の地といわれ、現在も福井県内一の水揚げ量を誇っている。
先人の努力で進化を遂げた三国港の甘エビ漁
清流・九頭竜川の河口付近に位置する三国町は、切り出した岩場と日本海のコントラストが約1kmに渡り続く奇勝地・東尋坊からほど近い場所にある。古より漁業がおこなわれており、かつては北海道産の昆布やニシンなどを載せ、京都や江戸と往来した交易船「北前船」の寄港地として栄えた歴史を持つ。
三国港近海で甘エビ漁が行われるのは9~11月上旬にかけての冬期と、3~6月にかけての春期。
甘エビの最高峰「子持ち」は産卵期の冬期に獲れるもので、鮮やかな青色の卵をお腹に携えているのが特長だ。春期の4~5月は脱皮した直後で殻が柔らかい「もちえび」が水揚げされる時期で、殻ごと食べられる甘エビとして近年人気が上がっている。
「甘エビの良し悪しはなんといっても色。いい甘エビは真っ赤な色をしています。三国港では品質管理と選別を徹底していて、水揚げされた甘エビはタンクに蓄えてある冷水で即冷やし、サイズ別に質の良いものを選別しています」と話すのは、三国港機船底曳網漁業協同組合 代表理事組合長の濵出征勝さん。14歳の頃から漁船に乗る大ベテランだ。
甘エビは1959年頃、初めて三国港で水揚げされたといわれており、カニ漁を行っていた漁師の網に偶然甘エビが入ってきたのを見た漁師が、海底の深くに生息しているのではないかと調査を開始。海底500mほどのところに生息していることを突き止めた。その後、濵出さんをはじめとする三国の漁師たちは、甘エビ漁のために底引き網漁の技術向上に邁進。また限りある水産資源を守るため、以前は一回の漁で7、8回網を上げていたが、近年は一日2~3回に制限し、三国町の甘エビを後世に繋ごうと取り組んでいる。
初めて水揚げした当初は、海底500mに甘エビがいることが判明したものの、網を引き上げる動力がなかったという。その後、網を引き上げる装置をベルトからチェーンに変え、さらに海底1500mからでも上げられる油圧式へと進歩させた。また甘エビだけを効率的に捕獲するため、底引き網を海底から少し浮かすように工夫。海底にいるヒトデなどの不要な生物をさらうことなく、甘エビだけが効率的に網に入るようにするなど、細かな工夫を積み重ねて今日に至ってるという。
「最初に甘エビの存在を発見してくれた漁師は、我々にとっては国民栄誉賞ですね」と、濵出さん。
県内水揚げ量No.1 三国の甘エビが美味なる理由
三国港で良質な甘エビが獲れる理由は定かではないが、一説では九頭竜川などの三国町を流れる大河が山の養分を日本海に運びこみ、三国港近海が栄養あふれる漁場になっているからといわれている。また越前海岸沿岸は潮の流れが複雑で、海底付近の栄養塩(植物プランクトンや海藻の栄養となる成分)を含む冷たい海水と、表層の温かい海水が混ざり合うことで、植物プランクトンが発生。それをエサにする動物プランクトンが集まり、さらに魚や甘エビも集まるともいわれている。
また三国港の甘エビは全国的にも珍しく、夕方から夜にセリが行われる。その理由は、港から漁場が1~2時間、遠くても3~4時間と近距離にあるため、朝出航した船がその日のうちにとった甘エビを水揚げすることができるから。帰航してすぐにセリにかけることができるため、次の日の朝には金沢などの市場に新鮮な甘エビが並ぶことになる。
そんな甘エビのことを知り尽くした濵出さんによると、甘エビは少し熟成させたほうがより美味しく食べることができるのだという。
「甘エビは24~48時間寝かせると、甘みが上がって食感もねっとりとして美味しいです。魚介類は新鮮なほうが美味しいと思っておられる方も多いですが、ぜひ寝かせて熟成した甘エビも召し上がってみていただきたいです」。
甘エビを味わい尽くす三国町の絶品丼
三国港の目の前にある「越前 蟹の坊」は、三国の料理旅館「望洋楼」直営の飲食店。ここでは甘エビを存分に堪能できる料理が用意されている。
「越前 蟹の坊」のこだわりは、獲れたての甘エビを−60℃で冷凍保存できる施設を使用していること。そうすることで漁期以外の期間でも新鮮な甘エビを一年中食べることができるのだ。また漁のシーズンにタイミングがあえば、「あがりこ」と呼ばれる一度も冷凍していない生の甘エビに出会うこともできる。
「寝かせた甘エビも美味しいですが、うちではできるだけ新鮮な甘エビのプリっとした食感を味わっていただきたいと、冷凍焼けのような劣化を防ぐ−60℃の超低温で冷凍保存し、エビの殻剥きにもこだわりを持っています」と、料理長の伊藤俊明さんは話す。
「蟹の坊」の一番人気は、特製の海老醤油で和えた甘エビのむき身をこれでもかと盛り付けた「三国湊 甘海老てんこ盛り丼」。また、甘エビを贅沢にフライにしたものを、あんかけ卵とじ仕立てにしたご飯の上にうず高くのせた「甘海老カツピラミッド丼」や、三国産の大振りの甘エビだけを厳選したお刺身もぜひ味わってほしい一品。どれも見た目のインパクト、ボリュームともに申し分なく、口いっぱいに甘エビをほおばることができる産地ならではの料理だ。
甘エビ漁発祥の地、三国の海で育った真っ赤な甘エビ。一度食べればきっと、そのとろけるような舌ざわりと甘みのある味わいの虜になるはずだ。
三国産甘エビ
情報提供:三国港機船底曳網漁業協同組合 代表理事組合長 濵出征勝さん“旬”の時期
9~11月上旬にかけての冬期と、3~6月にかけての春期。
目利きポイント
真っ赤な色をしているものがいい甘エビ。
美味しい食べ方
お刺身、フライなど