千年の都、京都。誇りが繋げる伝統食材
そのひとつといえるのが「京料理」という食文化。京料理は平安時代の貴族の間で食べられた有職料理や、寺院に根付いた精進料理、茶道とともに発達した会席料理などがルーツとされ、華やかな見た目と繊細な技術や、季節を重んじる精神が今もこの京都の地で息づいている。そして、この京料理の歴史の中でともに育まれてきたのが、京都の風土が生んだ「京野菜」や貴族に愛された「白味噌」など、独特の伝統食材だ。
姿形もユニークな、京野菜たち
三方を山で囲まれた京都では、かつて海産物を手に入れることが難しく、代わりに新鮮な野菜たちが重宝されていた。夏は猛暑、冬は厳しい底冷えのする盆地ならではの気候と、豊かな地下水、肥沃な土質といった京都の風土は野菜づくりに適していた。さらには、質のよい野菜を追求する生産者たちの努力から、品種改良と栽培技術も向上していき今日の伝統的な「京野菜」が誕生した。
京都駅の近くに位置する京都市中央卸売市場第一市場にある、野菜や果物を扱う会社「京都青果合同株式会社」で、京野菜を担当する猪坂久夫さんに場内をご案内いただいた。
“京野菜マイスター”でもある猪阪さんは、京野菜の特徴を「野菜の名前についている地名は、もともとその品種が栽培されていた場所に由来します。京野菜は珍しい形をしたものが多いですが、その土地の土壌が偶然生み出したという話や、品種改良の賜物であるなどの諸説があります。もちろん見た目が特徴的なだけではなく、京野菜は栄養価が高く、風味も良いんです」。と教えてくれた。
共に場内を歩き、通常の2倍以上の太さを持つ「堀川ごぼう」や、縞模様が美しい「海老芋」など、ユニークな形をした野菜たち一つひとつ手に取っては、その由来や魅力の説明をいただく。
「生産者にとって、京野菜を育てるのは手間も時間も必要で大変な作業です。収穫量も一般の野菜に比べると少なく、流通や小売業者にまとまった量を卸す我々としても効率性は良くないのですが、長い歳月をかけてこの京都で育まれてきた文化がずっと続くよう大切にしていきたい」。と愛情たっぷりの口調で語ってくれた。
京野菜は栽培や収穫に手間がかかるため、時代の流れとともに絶滅してしまった品種も少なくないという。我々は、伝統を受け継ぎ、京野菜をつくり続けている生産者に会いに行くことにした。
まずは市内から北へ車で1時間と少し、南丹市日吉町で40年間「聖護院かぶ」を生産している水本史郎さんの畑に訪れた。ひんやりと冷たい空気が漂う山間の畑に、丸々と太った純白の聖護院かぶが育っていた。
聖護院かぶは京都名物・千枚漬けに使われることが多く、味や食感はもちろん、断面の大きさや美しい丸みといった見た目も重要となる。
「この辺りは赤土系の粘土質の土壌なので養分が多く根物がよく育ちます。さらに昼夜の寒暖の差と濃い霧が、みずみずしくてキメの細かい、甘いかぶらを育ててくれます」と、美しく実った聖護院がぶを抱える水本さんはどこか誇らしげでもある。
山深いこの地は聖護院かぶの生育に適しているものの、困難も多いという。
「収穫の最盛期である冬場の気温は氷点下になることもあったり、また、周囲の山から降りてきた野生の猿や鹿たちが作物を荒らしたりと。聖護院かぶが出来上がるまでは一日たりとも気は抜けませんね」。
それでも水本さんは、そうした環境と向かい合い周囲の生産者と協力しながら京野菜の伝統と誇りを絶やさぬために聖護院かぶを作り続けている。
つづいて亀岡市で「九条ねぎ」を生産している西村農園へ向かった。九条ねぎは京都の家庭で日常的に食べられている京野菜。青い部分が多く葉が柔らかいのが特徴で、鍋ものの具材や薬味としても好まれる。生産者の音川功さんいわく、西村農園では“きりかえネギ”という伝統的な育て方をしているそうだ。
「10月に種を撒いて3月に一度穫り、干した根を植え直し、4?10月の間で収穫します。収穫まで時間が必要で手間がかかりますが、そうしたことによって甘みと香りの強い九条ねぎができあがります」。
手間ひまをかけて育てた西村農園の九条ねぎは、葉が柔らかく味がいいという。音川さんは「これが自慢の九条ねぎです」と笑顔で胸をはる。そして、通常の倍もかかる作業を「この京都という土地で美味しい九条ねぎをつくるのが、好きなだけですよ」と照れ臭そうに、だが誇らしげに語ってくれた。
九条ねぎは一年中食べることができるが、なかでも冬の時期に出回るものが格別に美味しいという。中身がとろりとして更に甘みを増した九条ねぎは、冬場の鍋物に必須の存在だ。
公家文化が生んだ「西京白味噌」
京都ではお正月のお雑煮を始め、白和えや田楽、鰆の西京漬けなどさまざまな料理に使う「西京白味噌」。淡黄色の色合いと、柔らかな甘みが上品な米味噌だ。
白味噌文化の発展は京都の王朝文化が関係していると教えてくれたのは、天保元年(1830年)創業の老舗で、地元を代表する味噌ブランド・西京味噌の山田剛史さん。 「『西京白味噌』は大豆よりも米麹を多く配合している味噌。甘みが強いのもそのためです。京都に都があった頃、貴重な米をふんだんに使用した白味噌は、お正月をはじめとする宮中のハレの儀式に重宝されました。『雅』を基調とする雰囲気の中で醸成された味噌だと言えるのではないでしょうか」。
綾部市にある西京味噌の工場で、白味噌の製造工程を見せてもらった。通常の米味噌は、大豆と米の配合比率およそ1:1に対して、ここでつくられている「西京白味噌」は米を大豆の約2倍の量を使って仕込んでいく。
まずは米を蒸して麹菌を加え、48時間かけて米麹を作る。出来上がった米麹を大豆や塩などと一緒に撹拌(かくはん:かき混ぜること)し、それを熟成した後、一度こして、もう一度熟成庫で寝かせ、そのあと常温でさらに後熟させて完成する。
「ほかのお味噌は完成まで3?4ヶ月間熟成させますが、白味噌の熟成期間はわずか20日ほどと短いのが特長です。こうして、美しい白みがかった淡黄色の白味噌に仕上げていきます」と工場長の大槻直人さん。白味噌は他の味噌と比べ塩分が低く、米麹本来の甘みを感じられることから、料理だけでなく和菓子にも使われるという。
「西京白味噌の品質を守り高めていくことが社としての第一であり、伝統の味をここ京都でつくり続けることで、これからも永く皆様に楽しんでもらえたらと思います」と山田さんは語る。
京都の"旬"を閉じ込めた辻が花の「お吸い物」と「西京味噌漬」
1000年以上の時を越えて、誇りとともに受け継がれてきた、京野菜と西京白味噌。この伝統食材を楽しむことができるのが、京洛 辻が花の「京野菜のお吸い物最中」と西京漬け「慶雲生五彩(けいうんごさいをしょうず)」だ。
「京野菜のお吸い物最中」の見た目は貝の形をしたかわいらしい真っ白な最中。これを少し割ってお椀に入れてお湯を注ぐと、京野菜を使った白味噌仕立ての本格的なお吸い物が出来上がる。
「聖護院かぶ・壬生菜」、「海老芋・金時人参」など、さまざまな組み合わせがあり、食卓に添えるだけで手軽に京料理のエッセンスを楽しむことができる。
「具材の組み合わせについては、味はもちろん見た目や彩りにも気を配っています。“旬”の一番美味しい時に収穫した京野菜をフリーズドライ加工することで、素材の味や食感、栄養価の損失を最小限に抑え、一年中楽しめるようにしました。京都産の本物の京野菜は“旬”の時期以外は市場に出回らないので、一定量を確保するのに苦労しましたが、京野菜の伝統を継承していこうという志のある農家さんや市場の方との連携で、この商品が誕生しました」。
そう話してくれたのは、辻が花の商品担当の田中正人さん。フリーズドライという製法で、どこにいても“旬”の京野菜の味が楽しめる。「京料理の伝統を、今の時代に合った形で多くの人たちに味わってもらいたい」という想いを持って、試行錯誤を重ねた末に生まれた辻が花の一品。
「慶雲生五彩」と名をつけられた品は西京白味噌で漬け込まれた西京漬けだ。金目鯛、銀鱈、キングサーモンなど色々な種類があり、簡単な調理で本格的な西京漬けが手軽に味わえる。丁寧に切り分けられた魚は柚子の香りを忍ばせた西京味噌床に低温で3昼夜じっくりと漬け込まれ、「西京白味噌」の甘みと魚本来の旨みが引き出される。守り伝えられた伝承の西京味噌漬に京洛辻が花が進化する時代の息を吹き込んだ新しき古典の美味の極みだ。
この二品には、古都の歴史と、それを繋ぐ人たちの誇りが詰まっている。
京都一の繁華街、三条河原町のメインストリートに位置する辻が花のお店では、「京野菜のお吸い物最中」をはじめ、「西京白味噌」で作る魚の西京漬けや、京都では「ぶぶ漬け」と呼ばれるお茶漬けなどがそろっている。かわいらしいパッケージはお土産にもぴったり。旅の思い出に、“京都の味”をお持ち帰りしてはいかがだろうか。