未来に残したい滋賀の食。琵琶湖でしか味わえない「琵琶湖八珍」

滋賀県近江八幡市沖島町
フナ料理集合
(取材月: April 2024)
滋賀県民が“母なる湖”と呼び称える琵琶湖。約400万年前に誕生したといわれる世界有数の古代湖で、日本で一番大きな湖でもある。滋賀県の食文化を語るうえで欠かせないのが、琵琶湖で水揚げされる湖魚たち。「琵琶湖八珍」は代表的な湖魚8種の総称で、その存在を広く発信するために名付けられた。今回は琵琶湖漁業が盛んな沖島を訪れ、この時期に穫れる琵琶湖八珍を取材した。

“ビワ・コ・ハ・ホン・ニ・ス・ゴ・イ”で「琵琶湖八珍」

琵琶湖には16種の固有種を含む約80種の魚介類が棲息しており、滋賀県ならではの食材として古くから親しまれてきた。そんな湖魚の存在を広く発信し、後世へ残していこうと選出されたのが「琵琶湖八珍」。琵琶湖の湖魚を代表するビワマス、ニゴロブナ、ホンモロコ、イサザ、ゴリ、コアユ、スジエビ、ハスの8種から成り、それぞれの頭文字をとると“ビワ・コ・ハ・ホン・ニ・ス・ゴ・イ”(琵琶湖は本当にすごい)となる。

沖島の様子

近江八幡市の堀切港から船で10分で行ける沖島は、琵琶湖に浮かぶ有人島。約200名の島民のほとんどが漁業に関わっており、水揚げ量は琵琶湖漁業全体の約4割。まさに琵琶湖八珍と共に生きてきた島といえる。沖島漁業協同組合で代表理事組合長を務める奥村繁さんは、沖島生まれ沖島育ちの現役漁師。誰よりも琵琶湖の魚を知る彼に、その魅力を聞いてみた。

奥村さん

「海の魚も好きですが、とりわけ琵琶湖の魚が好きです。食べ慣れているというのもあるけれど、琵琶湖の魚は脂がさっぱりとして淡白で、毎日食べても食べ飽きないんです。海水じゃないから、塩分量が低いというのもあるかもしれないですね。琵琶湖八珍にあがっている8種は湖魚の中でもごく一部。これをきっかけにいろいろな琵琶湖の魚を知って味わっていただきたいです」

春が“旬”の琵琶湖八珍と郷土料理「ふなずし」

カラフルな網

本土からわずか10分の距離とはいえ、沖島を歩くと独特の文化が息づいていることがわかる。島民の多くが漁業に従事しているとあって、各家の軒先には漁業で使う網やゴム手袋が干されており、細い路地でふなずしづくりをする女性にも遭遇。滋賀県にこんな場所があったとは、と驚かされる。奥村組合長は「島にはほとんど平地がなくて、山裾を無理やり切り崩した場所に民家を建てているので、車も通れないほど密集しています。敷地がないもんだから、スポーツには縁がなかったですね。島でできるものといえばピンポンくらい」と、島の暮らしを教えてくれた。

フナ

取材に訪れた4月初頭は、ちょうどニゴロブナとホンモロコ漁の時期。特にニゴロブナは郷土料理「ふなずし」に使う子持ちのメスが一番美味しいタイミングだ。漁は朝早くから行われ、網を湖に沈めて数日後に引き上げる「刺し網漁」か、網のついたロープを投げ入れて巻き上げる「沖曳き漁」の2通りの方法がある。獲りたい魚種や漁師さんの得意な方法を選ぶそうだ。午前中の11時には港に帰り、すぐに業者に引き渡す。沖島では夫婦で漁をするのが一般的で、まちのお母さん衆も漁師として活躍している。

フナ寿司の仕込み

漁港ではちょうど水揚げされたメスのニゴロブナを塩漬けにして、夏に開催されるふなずしづくり体験用に仕込んでいた。「うろこを取って内蔵と浮袋を抜き取り、そこに塩をしっかり入れ込んで、常温で約3ヶ月間漬け込みます。夏になったら塩を洗って、炊いたお米を詰めてまた3ヶ月ほど発酵・熟成。年末年始には食べ頃になりますよ」と、慣れた手つきで塩を揉み込むお母さん。塩もお米も大量に使うふなずしは、保存食であり高級食。沖島では各家庭でも仕込み、贈答用にしたり、年末年始のご馳走として食べたりするそうだ。

フナ料理

もちろん湖魚料理はほかにもたくさんある。沖島では漁協婦人部で結成された湖島婦貴 ( ことぶき ) の会のお母さんたちが、湖魚料理をふるまう食堂を運営している。取材時にはふなずしをはじめ、オスのニゴロブナの皮付き刺身を酢味噌で和えた「じょき」、ホンモロコ・ゴリ・スジエビの佃煮、ワカサギの天ぷらなどのご馳走を用意してくれた。特に有名なふなずしは臭みがなく、からすみのような塩気に柔らかな酸味がマッチして、噛むほどに旨味が染み出してくる。「ふなずしはご飯にのせてお茶漬けにしてもおいしいで。塩昆布とお醤油をたらしてな」と、ローカルな食べ方も教えてもらった。どれも初めての味わいで、ここでしか味わえない一品だ。

漁師が住めなくなったら死んでしまう。琵琶湖の恵みを未来へ残す

海洋資源の枯渇が叫ばれているのと同じく、琵琶湖の湖魚も年々漁獲量が減ってきている。「琵琶湖八珍」の選定は滋賀の食文化を発信するためだけでなく、琵琶湖を未来へ残すためのプロジェクトでもあるのだ。

沖島の様子

1977年に京阪神の生活用水として琵琶湖の水を使うために大規模な開発が行われたことや、時代の移り変わりと共に農業に農薬が使われるようになったことなど、琵琶湖の環境の変化にはさまざまな原因が考えられる。どうすれば魚が住みやすい琵琶湖になるか、いまある琵琶湖をどう守っていけばいいのか。それがいま、奥村組合長をはじめとする漁業従事者が向き合っている大きな課題だ。

「湖魚がとれなくなったら琵琶湖の漁師はいなくなり、琵琶湖も死んでしまうでしょう。私らは運命共同体なんです。だから多くのみなさんに、まず『琵琶湖八珍』をはじめとする湖魚の存在と美味しさを知ってほしい。漁師がいて、生活ができて、自然が保たれている。そんな琵琶湖がいつまでも残ってくれるように、これからも守り続けたいと思います」

沖島の様子

湖魚が暮らす豊かな琵琶湖も、漁師がたくさん暮らす沖島特有の雰囲気も、大切な日本の食文化のひとつ。滋賀県を訪れるなら、ぜひ湖魚料理を味わってみてほしい。

Writer : ASAKO INOUE
 / 
Photographer : SATOSHI TACHIBANA

沖島漁業協同組合

所在地 滋賀県近江八幡市沖島町43
TEL 0748-33-9511
URL http://www.biwako-okishima.com/

滋賀県  観光情報

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