ロス食材を使った、おいしくてかわいいポップスター。「青果ミコト屋」のアイスクリーム
野菜の販売はもちろんのこと、併設する「KIKI NATURAL ICECREAM」では、農家さんから引き取ったロスになる野菜や果物を使ったアイスクリームが食べられます。フレーバーは常時10種ほどあり、それぞれの味はもちろんのこと、その素材が使われるに至ったストーリーも興味をそそられるものばかりです。
このようなアイスクリームを作ったオーナーの鈴木鉄平さんにお話を伺いました。
一台のバンから始まった、旅する八百屋。
ミコト屋を始める以前、アジア各国を巡る旅に出た鈴木さん。ネパールの山岳民族などのプリミティブな暮らしに触れ、“土に根ざした生き方”をしたいと、帰国後は自然栽培に取り組む農家へ弟子入りします。その後、志を同じくした山代徹さんと一緒にミコト屋をスタート。最初の10年間はバンで全国の農家を巡りながら野菜を仕入れる、宅配のみの八百屋として活動。2年前にオープンした実店舗Micotoya Houseの店頭には、野菜仕入れの旅を共にしてきたそのバンがイートインスペースとして改造され、彼らのアイコンとして置かれています。
「日が昇る頃に起きて夜は眠る。決して裕福ではないけれど、太陽のリズムで暮らして、楽しそうに仕事をするネパールの人々がとても幸せそうで。他人にも自分にも良い生き方をしたいという想いが、やがて“旅する八百屋”という形になりました」と、鈴木さん。
農家さんに直接会いにいくことを大切にしている鈴木さん。また自分たちでも小さな畑を持ち野菜を育てることで、農家さんのことをより深く理解することができるといいます。
「品物を売るだけでなく、作物の背景にあるストーリーをお客さんに知ってほしい。どんな人が育てたのか、どんな土地で育ったのか、それに美味しい食べ方も。スタッフも農家さんに会うと彼らに惚れて帰ってくるので、商品に対する熱量が変わります」
美味しくロス食材を救う。アイスクリームはカジュアルな代弁者。
青果ミコト屋が手掛ける「KIKI NATURAL ICECREAM」は、本来捨てられてしまう運命だった食材を使ったアイスクリームブランド。安定剤や乳化剤を使っていないのでホロホロと崩れる食感で、優しく口の中でとろけます。米粉のワッフルコーンもおかわりしたくなる美味しさです。食材は、農家さんから相談を受けて譲り受けたり、時には鈴木さんが農家さんの畑から“アイスクリームになりそうなもの”を持ち帰ってくることもあります。
「畑を回っていると、食べられるのに捨てられてしまう作物が本当にたくさんあることがわかります。サイズが規格外だったり、傷んでいたり、間引きしたもの、大量に穫れて余ったものなど。もったいないけれど処理するほうがコストがかかるので、農家さんとしては捨てるしかない。そんな農家さんの受け皿になることも、僕たちの仕事だと思うんです」
ロス食材をアイスクリームにするためには、相当の手間がかかります。たとえば熟しすぎたレッドキウイは、発酵した部分を5,6人で5時間以上をかけて取り除き、間引き人参は洗うのが大変なわりに、可食部がほんの少ししかないそうです。取材時、ショーケースに並んでいたのはミルク、焼き茄子、根セロリ、ワインを絞った後の発酵ブドウなどを使ったフレーバーたち。パティシエさんによる愛のこもった商品POPにはぎっしりとフレーバーの紹介文が書いてあり、食材のことや作り手の思いも知ることができます。
「アイスクリームを作ろうと思ったのは、すごくポップだから。野菜を売りながらフードロスの話をすると重いですが、アイスクリームを通せばカジュアルに伝えることができます。甘くて、かわいくて、美味しくて、食べると農家さんの助けになる。これってすごく気持ちの良い消費だと思います。うちに並んでいるのは、ロス食材だからこそ生まれたフレーバーばかり。ロス食材だからこそ美味しいと言ってもらえたらうれしいです」
次につくりたいのは、栗の虫のアイスクリーム
鈴木さんが次につくりたいと思っているのが、栗の虫のアイスクリーム。無農薬の栗は出荷前に燻蒸という処理をして中の虫を取り除くのですが、この虫がとっても美味しいのだとか。
「生まれた時から栗しか食べていない虫で、ナッツのようなコクがあって本当に美味しいんです。栗農家さんが燻蒸するか農薬を使うか悩んでいたので、今年買い取りました。これを栗と一緒にアイスクリームにします。フレーバー名は『栗むしとむし栗』にする予定」
ロス食材の新しい魅力に気づかせてくれるアイスクリーム。みなさんもきっとワクワクするはずです。