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THE ROOTS OF SHUN (November 2017)

自然のリズムに合わせて育つ四万十の生姜

- 高知県四万十町

自然のリズムに合わせて育つ四万十の生姜

(取材月:October 2017)

全長196km。「日本最後の清流」とも呼ばれる四万十川。そんな四万十川の周辺は食材の宝庫としても知られている。肥沃な土地に加え、豊富な日照量と適度な雨量にも恵まれたメリハリのある気候が、栄養をたっぷり蓄えた農作物を育ててくれるのだ。

なかでも、秋から冬に収穫を迎える生姜の生産量は全国トップクラス。品質も評価され、四万十地方を象徴する名産となっている。

美味しい生姜づくりの秘訣は“余計なことをしないこと”

訪れたのは四万十川の中流域に位置する四万十町。この町にユニークな栽培法で力強く美味しい生姜を育てる名人がいる。

川のほとりで緑豊かな農園「桐島畑」を営む桐島正一さんだ。70種類以上の野菜を少量多品目でつくっている農家で、独自の農業観が、消費者だけでなく全国の農業関係者等からも多くの共感を集めている。

桐島さんの畑にお邪魔すると、挨拶も早々に自慢の生姜を土から引っ張り出してくれた。ゴロっと存在感のある武骨な生姜が現れ、強い香りが畑一面に広がっていく。

「穫れたての生姜は、まだ辛みが強いんです。漬け物や寿司屋のガリに向いているのかな。うちの生姜は、収穫してからじっくりと寝かせます。その方が旨みと辛みが濃くなって美味しくなるからね」。

桐島さんの生姜づくりは毎年4月から始まり、11月に収穫を迎える。美味しい生姜づくりの秘訣は、できるだけ“余計なことをしないこと”だという。

自家採取した種を植え付けた後、雑草抜きやネット張り、盛り土など多少の世話はするものの、基本的には自然の力に委ねている。農薬も化学肥料も一切使用しない。土の中にいる微生物の働きを活かしてカビや病原菌の発生を抑え、万が一病気やカビが出ればそれを取り除くというスタンスだ。

最も気を遣う仕事を尋ねると、生姜の発芽や草丈の具合を確かめながら、鶏糞を使った肥料を撒くタイミングを見極めることぐらいだという。

「野菜が本来もっている力をどうやって引き出すかということを常々考えています。作物が根付き、芽が出て、種が落ちる。またその種の力で根が張る。自然のサイクルをできるだけ再現し、そのサイクルに抗わないよう、野菜をよく観察し成長の手助けをしてあげる。野菜自身が置かれた環境に適応し、勝手に強くなろうとするので、味が濃くて美味しい野菜ができるんです」。

収穫する生姜は毎年3〜4トン。貯蔵する場所は自宅の裏山にある洞穴。2ヶ月ほどかけて自分で掘り進めたというから驚きだ。冷蔵庫だと温度が低すぎて生姜が萎れてしまい、屋外だと温度差が激しすぎる。1年を通じて、14℃前後の温度を保ってくれるこの自然のなかに作った洞穴が、生姜にとって最適な環境なのだそうだ。

生姜づくり

生姜づくり

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紆余曲折の農家人生。辿り着いたのはシンプルな答え。

桐島さんは実家の農業を継いで30年近く。
現在の自然の力に委ねる農法を確立するまでには紆余曲折があった。

最初はナスの栽培をおこなっていた桐嶋さん。当然のように一般の農家と同じように農薬を撒き、化学肥料を使った慣行栽培を実践していたそうだ。ところが次第に、収穫した野菜の味が自分の体に合わなくなると同時に、毎回同じ規格の野菜をつくり続け、同じ流通に乗せることに疑問を抱くようになったという。

「いわば壁にぶつかってしまったんですね。自分が育てた野菜を美味しいと思えなくなってしまったし、皆で同じ野菜をつくるなら、別に自分がつくらなくてもいいのかなって。やる気も湧かず、しばらく畑に行かない時期もありました」。

一度は農業をあきらめかけたが、この“畑に行かない”という行動が結果的に桐島さんに光明をもたらすことになる。

「久しぶりに畑に足を運んでみると、野菜が勝手に育っていました。しかも美味しい。驚きましたね。それまではなにか手を加えることばかり考えていたので。それからは野菜に対して自分のできることを徹底的に考えるようになりました」。

その後は、農薬や化学肥料などの利用を控え、水やりと肥料を与えること、そして樹勢の管理という最低限の3つの手間を加えること以外は、自然環境の力に任せるという現在の農法に切り替えたのだ。

当初は、天候の影響を受けるなど生産力が低いうえに慣行栽培から外れることで従来の販路も失い、厳しい経営状況が続いたそうだが、試行錯誤を繰り返すなかで、安定して美味しい野菜をつくれるように。次第に固定客も増え、現在では全国各地から野菜の注文が相次ぐようになったのだ。

生姜づくり

農家人生

ジンジャーシロップが人気商品に

自然の力で育てたしっかりと味の濃い生姜は、加工にも適している。特に定評があるのがジンジャーシロップ。形の不揃いなB品の生姜をなんとか生かせないものかと、桐島さんが自宅の台所で考案したものだ。

細かくスライスした生姜を四万十の水で煮出し、その煮汁に砂糖を入れて炊き上げてつくるシロップは、生姜の風味が強く残りながらも、あとには引かない辛さが特徴。道の駅で販売を開始すると、温かいタッチのパッケージデザインも話題を呼び、その美味しさが口コミで広がり人気商品となった。

野菜も加工品も、全国からの引き合いが増えるにつれスタッフも増員。現在は県内外からの農業移住者も受け入れている。

自らが苦闘しながらも手にした野菜づくりのノウハウや経験を惜しむことなく、若い世代に伝えているそうだ。

「農業を始めて30年、ようやく自分の農業に手応えを感じられるようになってきた。これからは次の世代へバトンタッチしたい。この手応えを自分の世代で終わらせてはダメ。つながってきたものをつなげていくことこそ農業だから」。

四万十の大地に抱かれ、生産者が自然と真摯に向き合いながら大切に育てた生姜。この滋味深い里山の恵みをぜひ一度味わってみて欲しい。

ジンジャーシロップ

ジンジャーシロップ

Writer : TAICHI UEDA / Photographer : YUTA SUZUKI

高知県の生姜

情報提供:桐島畑 桐島正一さん

高知県の生姜

“旬”の時期
新生姜は10月〜11月。寝かせた根生姜は通年美味しく食べられる。

目利きポイント
1. 新生姜の場合:赤い部分が多いこと
2.根生姜の場合:肥大のしかた=まわりの”年輪"のような模様が均一に入っているもの。ここの狭い広いで生育のスピードがわかる。
表面が茶色よりは黄味の強いもの(乾燥すると白っぽくなるので、その前の場合)。
3.茎つきの場合は、太いものを選ぶといい。
(品種や栽培条件によっても異なる)

美味しい食べ方
収穫したての新生姜は、マッチ棒のように細長く切り刻み、かき揚げにして食べるのがおすすめ。