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THE ROOTS OF SHUN(October / BACK NUMBER 2016)

最高のご馳走は「地産地消」にあり

― 新潟県長岡市

巾着ナス

(取材月:September 2016)

ナスといえば、日本全国どこの家庭の食卓にものぼるポピュラーな野菜だが、なかでも、米どころとして有名な新潟県で、ナスがとても愛されているとは、あまり知られていない。

新潟では高温多湿な気候を活かし、地域ごとに約20種類ものナスが栽培されている。それぞれに形や食感が違うため、地元の人は品種に合った調理方法で、多種多様なナスの個性を味わうという独自の食文化を形成している。今回は「巾着ナス」の産地である新潟県・長岡市を訪れた。

長岡の地でこそ美味しく育つ「巾着ナス」

新潟県が古くからナス作りが盛んな理由とは。それは米作農家が繁忙期である田植えと稲刈りの合間に栽培することが出来たという背景と、ナスの生育に適した蒸し暑い夏の気候にある。

なかでも長岡市は、美味しいナスを育てるのに良い条件が整っていると、地元で50年以上ナス農家を営む小林幸一さんは話す。

「長岡は山に囲まれた盆地だから特に湿気が多いんです。夏はジメジメと蒸すし、冬に降る雪も水分を多く含んでベタベタしています。また、この辺りの土壌は信濃川の堆積土でミネラル分も豊富。だから美味しいナスが育ちやすいんです」。

小林さんの畑では、露地栽培でナスをできるかぎり自然な形で栽培している。あえて水やりをせず、ナスが自力で土の中の水分を吸い上げながら時間をかけて大きくなっていくことで、ツヤツヤと実の引き締まった味の濃いナスが出来るのだという。

収穫時期は6月〜10月ごろ。「やっぱり蒸し暑い盛りの真夏に収穫したものが最も美味しいね」と小林さんは話す。

作付面積が全国一にも関わらず新潟県産ナスの知名度が低いのは、ほとんどのナスが県内で消費されるため。ナス好きの新潟の人は、まるでイタリア人が様々にトマトを使い分けるように、料理によってナスの種類を使い分ける。

「ヤキナス」はその名の通り焼いて食べるととろみが出て美味しく、「梨ナス」は漬物に最適。そして、しっかりとした甘みがある「巾着ナス」は、蒸かして生姜醤油をつけて食べるのが一番だと小林さんが教えてくれた。

ナス農家

  • ナス
  • 久松農園

種を繋ぎ、食文化を繋ぐ。生産者と料理人の絆

江戸時代から続く家業のナス作りを続け、その種を守る小林さんは、長岡の地で代々引き継がれてきた「巾着ナス」という存在を未来に繋ぐ役割も担っている。それだけに、県外への発信の仕方にもひと味違ったこだわりがある。

「地産地消という言葉の本来の意味は“身土不二(しんどふに:身と土は切り離せないという意味)”だと思っています。つまり、自分が育った土地のものを食べていれば健康でいられますよということ。だから自分は県外に長岡の食文化の押し売りはしたくないの。外に出すのではなく、長岡に来てここで味わって欲しい」と、小林さんは満面の笑顔で話してくれた。

そんな小林さんが「いま長岡で一番勢いがある」と紹介してくれたのが、長岡産の食材をふんだんに使った料理が並ぶ「SUZU365」というデリスタイルのお店。

オーナーシェフ・鈴木将さんは長岡生まれで、地場産の食材と人々を繋ぐことをコンセプトにした飲食店を数軒経営しながら、長岡の食の魅力を発信する人物だ。

お総菜のショーケースには、小林さんの「巾着ナス」を蒸した田楽も並んでいた。一ついただいてみると、ギュッと噛みごたえのある実がみずみずしく、濃い甘みが口の中に広がった。思わず、うなってしまうほどの味わいのあるナスだ。

鈴木さんは「巾着ナス」の魅力を語ると同時に、地元に根付く食文化を継承していくことの大切さを話してくれた。

「小林さんの作る『巾着ナス』は特にずっしりと実が大きく、味が濃いですね。“蒸す”というナスの調理法は、若い人だと知らない方もいたりするのが現実。伝統の食文化を少しスタイリッシュにして提供することで、食べる人も増え、農家さんも作る意味が見いだせる。地元の美味しい食を今後の世代にも伝え続けていきたい」。

多種多様なナスの品種と、その個性を活かし、受け継がれていく食文化。
長岡を訪れて、ナスの個性あふれる美味しさを体験してみてはいかがだろうか。

小林さ

巾着ナス

鈴木将さん

Writer : ASAKO INOUE / Photographer : SATOSHI TACHIBANA

長岡市の「巾着ナス」
情報提供:ナス農家・小林幸一さん

長岡市の「巾着ナス」

“旬”の時期
身がしまり、もっとも美味しいのは8 月頃

目利きポイント
実がパンと張っていて、色つやがいいものが美味しい。
新鮮なものはヘタに鋭いトゲがある。

美味しい食べ方
蒸かして醤油や塩でシンプルに食べるのが一番。
皮をむいてラップに巻き、電子レンジで約3分温めるだけでも蒸し上がる。

SUZU365

所在地 新潟県長岡市下々条1 丁目126
TEL 0258-24-8677
URL http://suzugroup.com/
  • SUZU365