希少在来種を未来に繋げる「こんにゃく屋」の挑戦
国産原材料の使用と伝統製法は、創業から変わらないこだわり。一年中手に入るイメージの強いこんにゃくだが、近年「大島屋」では、在来種の生のこんにゃく芋を使用した“旬”のあるこんにゃくの普及に取り組んでいるという。
国産材料、伝統製法にこだわる大島屋
こんにゃくは、こんにゃく芋を原材料としてつくられる加工品。こんにゃく芋は強烈なエグミがあり、他の芋のように焼いたり煮たりしただけでは食べられない。しっかりアク抜きし、火を通してこんにゃくに加工したものしか食べることができない食材だ。
こんにゃく芋の産地としては群馬県が有名で、収穫量は全国一位。国内で収穫されるこんにゃく芋の9割が群馬県で生産されている。収穫されたこんにゃく芋は乾燥、製粉を経て、こんにゃく粉として製造業者に渡ることが多い。
福島県白河市でこんにゃく屋を営む大島屋でも群馬県産のこんにゃく粉を使用した商品が多く並ぶ。大島屋では群馬県産のこんにゃく粉のなかでもとくに質の高い特等粉を使用。製造は古くから伝わる「バタ練り」にこだわっている。バタ練りとは木の板を使い、こんにゃくの生地を練りあげる伝統製法。さらに、こんにゃくの切り出しから包装まで手作業でおこなわれる。
「練る作業は、こんにゃく製造に欠かせません。ぼくたちが地元で“練り屋”と呼ばれる所以です。オートメーションだとこんにゃくの密度がみっちりとしてしまうんですが、バタ練りだと適度に気泡が入り、よく味が染みるようになる。このごろは、輸入原材料を使用する業者も珍しくありませんが、特等粉のこんにゃくはなめらかで弾力があるんです」。
そう話すのは、大島屋の八代目当主、吉島祐輔さん。妻の佳津恵さんの家業を継いで、佳津恵さんの父と家族3人でこんにゃくづくりに精を出している。これまでは、受託製造を主軸にしていたが、2015年には福島県白河市に直売店「大島屋蒟蒻店」をオープンさせた。
「店舗は実家の一部を改装したもの。こんにゃく屋に見えないってよく言われますね」と、佳津恵さん。
佳津恵さんの言葉どおり、店内には夫婦の趣味を反映したレトロな小物や調度品が並び、雑貨屋のような雰囲気。バタ練り製法による板こんにゃく「バタこん」や白滝の「はないと」、「たまこん」などが商品棚に並ぶなか、とくに目をひく場所に陳列されているのが「白河蒟蒻(しらかわこんにゃく)」。この地元の名を冠したこんにゃくこそ、大島屋がいま一番力を注いでる商品だ。
国内生産量2%の“まぼろしの蒟蒻芋”
「白河蒟蒻」の特長は原材料にある。原材料は、白河市の隣、東白川郡矢祭町で収穫される在来種のこんにゃく芋、通称「和玉」。
在来種は、江戸時代中期に水戸藩から伝わったとされている。矢祭町は在来種の特産地として栄え、地域一帯がこんにゃく芋畑だった。病気にかかりやすく出荷できる大きさになるまでに3年以上かかる在来種は、昔は高値で取り引きされた。財を成した農家や卸売業者によってたくさんの「こんにゃく御殿」が建てられたという。
ところが、1970年代の後半(昭和50年代)になり、改良種が開発されると状況は一変。二年で出荷できて、病気にも強い改良種は在来種にとって代わり普及していく。やがて、群馬県が生産地として台頭していき、こんにゃくも通年流通するように。それにともなって、矢祭町のこんにゃく芋畑はどんどん縮小。現在、国内で生産されるこんにゃく芋のうち在来種の割合は2%ほどだという。
「こんにゃく芋農家が栄えていたころは、豊作を願って『蒟蒻神社』が建てられたほど。以前この地域では在来種を使ったこんにゃくは家庭でつくられていましたが、いまではそうした家庭も減りました。じつは、私も在来種のこんにゃくを食べたことがなくて。福島のこんにゃく屋である以上、県内産のこんにゃく芋を使いたいという強い思いもあったんです」と、佳津恵さん。
そんななか、地元新聞で在来種保存に取り組む矢祭町の11軒の農家が報じられた。その活動を知るなり、吉島さん夫婦は地元役場にかけあって、農家たちに接触を図った。
在来種を守る、地元農家たちの協力
吉島夫妻が役場に紹介されたのが片野盛好さんと片野惠仁さんだ。盛好さんは、こんにゃく芋をつくって60年のベテラン農家。保存、文化継承のために農地の一角で在来種を育てていた。
「在来種をすべて買い取りたい」と申し出る吉島夫妻に、当初は盛好さんも困惑気味だったという。吉島さんたちは、植え付けや収穫を手伝い少しずつ信頼関係を築いていった。
「こんにゃく芋の植え付けは5月ごろ。種芋を植えたら、11月下旬に収穫して保管庫で越冬させると一年目のサイクルが終わります。春が来たら再び植え付けて、二年目のサイクルへ。三年目の冬を迎えたころにやっと出荷できるんです。いかに手間をかけて在来種を残そうとしているのかが、わかりました」と、佳津恵さんは当時をふりかえる。
現在、大島屋は11軒すべてのこんにゃく芋農家と取り引きしている。
思いを込めた“旬”があるこんにゃく
大島屋の「白河蒟蒻」にかけるこだわりは、原材料だけにとどまらない。こんにゃく粉を使った製造が主流になっているいま、あえて生芋を使った製造に取り組んでいる。
開発に取り掛かった当初、吉島夫妻が頭を悩ませたのが、生芋を使った製造レシピだった。
大島屋では、佳津恵さんの曾祖父の代に生芋からこんにゃく粉に切り替えており、レシピが残っていなかったのだ。しかも、レシピは各家庭、業者で異なるため、理想のこんにゃくに行き着くまで試行錯誤が繰り返された。
「水分の量が少し違うだけで、食感が変わってくるんです。作り手の感覚頼りなところも大きいと思います。すべて手作業だから一度の製造に三人がかりで2日かかる。手間を考えたらよその業者もマネしないはず」と、笑う祐輔さん。
贅沢にも、生芋が使われるのは皮を削りとった中心部分のみ。祐輔さんがいうところの「こんにゃくの大吟醸」にも納得だ。
現在、「白河蒟蒻」は板こんにゃくと玉こんにゃくの2種類が販売されている。いずれも、なめらかな食感と、雑味やえぐみのない味わいが特長。めんつゆと炒めたり、白だしで軽く煮こむだけで充分、美味しさを実感できる。
大島屋が買い取ったこんにゃく芋の鮮度がいいのは収穫直後。つまり、12月から1月が「白河蒟蒻」の“旬”というわけだ。鮮度のピークが過ぎるとまた違った味わいに。ある程度保管されたこんにゃく芋はほどよく水気が飛び、揚げ物や焼き物に適したこんにゃくになるという。
「こんにゃくにも“旬”の味があるんです。そのことを伝えるのが、ぼくらこんにゃく屋の務めだと思うんですよね。それを誇りに思う一方で、しっかり事業化しないといけないプレッシャーもある。カッコつけにならないよう、いかに多くの人に食べてもらうかを考えていかないと」と、祐輔さんは未来を見つめる。
大島屋の「白河蒟蒻」は、在来種を残す取り組みやパッケージデザインが評価され、「2018年グッドデザイン賞」を受賞。機運高まる大島屋の次なる一手に期待したい。