「瀬戸田レモン」の産地、瀬戸内海に浮かぶ小さなレモンの島
なかでも、しまなみ海道の通る瀬戸田町生口島(いくちじま)は日本一の国産レモンの生産地として有名である。外国産レモンが市場で多くみられるようになった時代から、いち早く生産者らが連携し、美味しさと安全面にも気を配ったレモンの栽培に取り掛かったことで「瀬戸田レモン」としてのブランドを確立。全国各地のスーパーやレストラン、料理人から重宝されている。島内ではレモンの生産だけでなく、レモンを使ったジュースや菓子などの加工業も盛んで、通称「レモンの島」と呼ばれるほど生活にレモンが根付いている。
農家が大切に育てる安心安全なエコレモン
瀬戸田町生口島は、広島の尾道市と愛媛県今治市を結ぶしまなみ海道のほぼ中央に位置する人口約9,000人の小さな島だ。
土地の半分が傾斜地で日当りがよいことと、夏の降水量や年間の降水日数が少ないという瀬戸内特有の温暖な気候が、寒さや風に弱いレモンの栽培に適していたため、古くは明治時代頃からレモンの栽培が盛んになったそうだ。現在では町内の農家の多くがレモンを栽培しているため、秋〜冬にかけて島を訪れると、至るところで鮮やかな黄色の斑点模様を目にすることができる。
「レモンは手間がかからないぶん、育つ環境が一番大事。とにかく寒さに弱いからね。5℃ぐらいでも枯れちゃうんだよ」。
レモン農家の久保雅男さんが、収穫中の畑を案内してくれた。
レモンの栽培周期は、5月に花が咲き、6月頃から実がなり始める。10月頃から爽やかな香りと味わいが特徴のグリーンレモンの収穫が始まり、年末頃から翌年の4月頃まで、通常のイエローレモンの収穫が続く。収穫期間を比較的長く取るのは、出荷の直前まで鮮度を保つため。レモンは酸味が強く腐りにくい特長があるものの、久保さんのレモンは農薬の利用を抑えているため鮮度が落ちやすく、収穫するタイミングが肝となるのだ。
久保さんはレモンへの細かい配慮を怠らない。強い風などで樹が揺れると実に傷がつき、最悪病気にかかる恐れがあるため、なるべく樹の下部に実が集まるように調整し、葉っぱで覆い隠すようにレモンを成育させる。瀬戸田レモンは形がきれいと評判があがるのは、こうした農家の努力の賜物なのだ。
「収穫したてのレモンの香りをかぐと疲れも取れちゃうよ。特に形も色も綺麗なものが出来ると嬉しいよね」と、久保さんが照れ笑いをしながら語ってくれた。
1960年代に外国産レモンの輸入が自由化。外国産レモンが市場に多く出回ることになったが、当時、外国産レモンに多く使われている防かび剤が問題になった。 広島県では、久保さんが作るレモンのように、環境ホルモンの疑いのある農薬は一切使わず、農薬自体も減らして育てたレモンを「エコレモン」として全国でもいち早く認定した。瀬戸田地域が低農薬のレモンの栽培方法を模索し、見事にそれを確立することで、全国的にもその栽培方法が広まっていったという。皮まで安心して食べることができるのがエコレモンの特長だ。
届けたいのは“レモンの香り” 瀬戸田名物レモンケーキ
皮まで安心して味わうことができるエコレモンの特長を活かした加工品作りも盛んに行われている。特にレモンの香りを引き立てたレモンケーキ作りは町内でも5社以上の工房が取り組み、瀬戸田の名物の一つとして人気を集めている。
そのうちの一社である「島ごころ」の工房を訪れた。
この工房では、レモンケーキの生地に練り込む自家製のレモンジャムを果肉ではなく、すべてレモンの皮を使って作っている。しかも、すべて熟練のスタッフによる手作業で皮を切り取っているから驚きだ。
「レモンの香りの成分となるリモネンは実は果肉ではなくて、皮に含まれているんです。手作業にこだわるのも、レモンの香り成分をできるだけ損ないたくないからです。とにかく瀬戸田レモンが持つ爽やかで心地よい香りを届けたくて僕らはレモンケーキを作っています」と、代表の奥本隆三さんが教えてくれた。
奥本さんは生まれも育ちも生口島。18歳の時に初めて島を飛び出し、大阪のお菓子の専門学校を卒業、神戸で修行を積んだのちUターンして町内でロールケーキを中心とした洋菓子店を開いた。次第に幼い頃から慣れ親しんできた瀬戸田のレモンの魅力を再認識するようになり、10年程前からレモンケーキをつくりはじめ、いまでは、販売開始から累計300万個以上も売れた瀬戸田を代表するヒット商品となっている。奥本さんは、お菓子作りだけでなく、生産者や販売者を巻き込み「レモン祭り」などのイベントを主催するなど、瀬戸田のレモンを活用した町おこしにも積極的に取り組んでいる。
「小さい時から当たり前のように眺めていたレモン農家さんの仕事を改めて見てみると、本当に丁寧な仕事ぶりで驚いたんです。簡単そうに見えますが、細かい気配りが随所に隠されていて。レモンが全部キレイで糖度もある上に、香りが格別。胸を張って瀬戸田のレモンが一番と言えます。それをもっともっと伝えていきたいです」。
安心安全と向き合い、日々丁寧にレモンを育てる農家。
その果実を引き継ぎ、親しみやすい形で町の内外に魅力を伝える職人たち。
瀬戸内に浮かぶ小さなレモンの島は、生まれた島を愛し、レモンを愛する人々によって支えられていた。
瀬戸田レモン
情報提供:レモン農家 久保雅男さん / 島ごころ 奥本隆三さん“旬”の時期
10月〜12月 グリーンレモン
12月〜4月 イエローレモン
目利きポイント
色づきがよく、形が綺麗で果皮にハリとツヤがあるもの
果皮にシワがよったり、変色していないもの
美味しい食べ方
グリーンレモンは固いため、揉んだり電子レンジで少し温めてから使うとよい
レモンの香り成分が含まれているのは皮。レモンを絞る時は、果肉を上向きに皮が下にくるように絞ると、レモンの香りがより一層引き立つ