春の夜に浮かび上がる深海の青い宝石「ホタルイカ」
海流と地形に恵まれた富山湾
富山湾が”天然のいけす”と呼ばれる理由は、岸近くから急激に海底が深くなる特異な地形にある。湾内の最も深いところは水深1200mにも達し、入り組んだ谷がいくつも刻まれている海底は多様な魚の棲みかとなっている。
さらに3000m級の立山連峰から富山湾に注ぎこむ水は、高低差4000mもの急流となって海流を起こし、豊富な栄養分を海底まで届ける役割を果たしているため、魚の育ちがよいのだという。
また、湾内の漁場から水揚げ港までの距離が非常に近く、まさに”天然のいけす”から魚をすくうように鮮度の高いまま運び、セリにかけられていくのだ。
富山湾の奇跡、ホタルイカ群雄海面
富山湾を特に有名にしているのがホタルイカだ。
ホタルイカは日本海全域に生息しているが、ふだん水深200~600mあたりの深海で活動しているホタルイカが岸辺近くまで大量に押し寄せる現象が見られるのは富山湾のみであり、世界でもほかに類を見ないという。このため、富山市常願寺川河口から魚津港までの沖合海域は「ホタルイカ群雄海面」として国の特別天然記念物にも指定されている。
春になると、受精卵を抱えたメスのホタルイカは産卵のために海面近くまで浮上するのだが、富山湾では強い海流に流されて岸辺近くに集まったり、打ち上げられたりするのだ。この時期、産卵に備えてたっぷりと栄養をたくわえたメスのホタルイカは体が大きく、旨みも抜群。これも富山湾の地形がなせる奇跡の一つといえるだろう。
ホタルイカは、その名の通り体全体に発光器があり、刺激を受けると触手の2本を強く発光させて威嚇するという珍しい習性をもっている。海中で青白く光る姿はとても幻想的で美しく、その姿を一目見ようと、ホタルイカ漁の時期を迎えると国内外からの観光客が富山湾まで足を運ぶほどだ。
こうした観光客の要望に応えるため、ホタルイカの水揚げ量の多い滑川(なめりかわ)漁港では、真夜中のホタルイカ漁を見学できる「ほたるいか海上観光」をおこなっている。
しかし、ホタルイカの発光が海上で見られる時期は3月末~5月上旬。この春の一時期しか見ることのできない「ほたるいか海上観光」は、強風などの天候不順によって中止となったり、不漁によってホタルイカが発光しなかったりする場合もある。
こうした自然環境に合せておこなわれる「ほたるいか海上観光」だが、“乗船してホタルイカの発光を見ることのできた観光客は幸運である”ともいわれることから、直ぐに予約が埋まってしまうほどの盛況ぶりだという。
夜の海に青白い光を放つホタルイカの群れ
滑川春網定置漁業組合では、江戸時代から続く伝統の定置網でホタルイカ漁をおこなっている。藁などで作った網を沖合に仕掛け、産卵のため岸辺近くに集まってくるホタルイカを網に誘い込むのだ。
繊細なホタルイカの身を傷つけず、海洋資源を守り、漁期が終われば藁の網を沈めて自然に還す。こうした漁は先人の知恵を受け継いだ持続可能な漁法であり、自然との共生という観点から、再びその価値が認められている。
午前2時半、漁船の一団は滑川港を出航していく。
定置網を設置したポイントまでやってくると、漁師たちは一列に並んで一斉に網をたぐりよせ始める。飛び跳ねるイワシに混じって、網の上でキラキラと青く光る小さな物体がみえた。
寄せ集めたホタルイカはタモ網(魚をすくい揚げる柄のついた網)を使って、なるべく身を傷つけないようにすくい揚げていく。捕獲され興奮しているホタルイカは、コンテナに移されてもまだしばらく光りを放ち続けている。
「今日の収獲は少なめ、日によって差が大きいね」と、船頭の水橋一仁さんはちょっと不満げに話す。
強風で海面が少し濁っただけでも、ホタルイカたちは深いところへ沈んでしまうのだ。これから船上で選別を行いながら、朝日が昇る午前5時頃には港に戻り、入札にかけてすぐに茹で上げ、出荷する。ホタルイカは鮮度が落ちるのが早いので、ホタルイカ漁師の仕事はスピードが勝負なのだ。
当日水揚げされたばかりのホタルイカを食す
滑川漁港から車で5分ほどのところにある「割烹あらき」では、水揚げされたばかりの滑川産のホタルイカや地魚を使った郷土料理を味わうことができる。
「うちの店は着色料・保存料・化学調味料を一切使っていません。醤油や酒も富山県産を使い、定番のホタルイカの沖漬けはもちろん、ポン酢やガリなども自家製で作りあげています」と、店主の荒木清文さんは店のこだわりを教えてくれた。
ホタルイカの内臓をきれいに取り除き、美しく皿に並べた「ホタルイカの刺身」は地元ならではの調理法。また、漁師の珍味といわれているホタルイカの足の刺身は「竜宮そうめん」と呼ばれ、ショウガ醤油につけて口に入れれば、新鮮なホタルイカの甘みと歯ごたえがたまらない。
荒木さんのおすすめは「ホタルイカの釜揚げ」。酒と昆布だしの鍋でホタルイカを湯がき、プリプリになったところを酢味噌でいただく。シンプルだからこそ新鮮な素材の旨みが活きる贅沢な一品だ。
春の富山湾に青く光り輝く宝石、ホタルイカ。ぜひその美しさと美味しさを味わいに、富山に足を運んでみてはいかがだろうか。
滑川市の「ホタルイカ」
情報提供:「割烹あらき」店主・荒木清文さん“旬”の時期
3月~6月まで。4月頃の産卵期が一番美味しいといわれている。
美味しい食べ方
シンプルに酢味噌で食べるホタルイカの釜揚げが、素材の良さを味わえておすすめ。
ほたるいかミュージアム
ホタルイカは、その生態がいまだに詳しい解明には至っていないといわれているほど、謎が多い神秘的な生き物である。そのような神秘的なホタルイカの世界を楽しく体験できる場所が滑川漁港の隣地にある「ほたるいかミュージアム」だ。「ほたるいかミュージアム」ではフルハイビジョン映像でホタルイカの生態や富山湾の特徴について学べ、3月中・下旬~5月末の期間は活きたホタルイカの発光ショーが見られる。
住所 | 富山県滑川市中川原410 |
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TEL | 076-476-9300 |
開館時間 | 9:00-17:00 ※入館は閉館時間の30分前まで |
閉館日 | ・6月1日~3月19日の毎週火曜日 (祝日の場合は翌日) ・年末年始 ・1月 最終月曜日から3日間 |
URL | http://hotaruikamuseum.com/museum |