雄大な大自然と北の大地が育む、健やかな「あか毛和牛」
そんな牛肉の中で、日本には“和牛”という世界に誇るブランド牛肉がある。そして、健康を重視する人たちの注目も相まって、近年注目されているのが、適度な脂身と旨みの詰まった赤身が特徴の「あか毛和牛」だ。
注目を集める「あか毛和牛」とは?
「あか毛和牛」はその名の通り、褐色の毛を持つ和牛。現在国内の和牛のほとんどが美しい“霜降り”を重視した「黒毛和牛」で、「あか毛和牛」は生産量が2%にも満たない貴重な品種といわれている。
この「あか毛和牛」の美味しさを広く知ってもらおうと、2011年に設立された全日本あか毛和牛協会に「あか毛和牛」についての話を伺った。
「『あか毛和牛』の特長は、旨みの多い赤身と適度な霜降り、和牛ならではの柔らかさなど、健康志向の現代人にマッチする肉質です。脂っこくないのでいくらでも食べられますよ」と教えてくれたのは、全日本あか毛和牛協会の事務局次長・金子美博さん。
この「あか毛和牛」特有の味わいを作りあげるのは、 “育て方”にあると金子さんはいう。 「『黒毛和牛』は、産まれてまもなく母牛と離して育てるのですが、『あか毛和牛』の仔牛は生後しばらく母牛と一緒に過ごし、母乳を吸って大きくなります。また、あか毛和牛は群れで行動する習性があり、放牧に適した品種で、自然の中でのびのびと牧草や野草を食べながら育っていきます。牛にとってストレスのない快適な環境が、健康で美味しい牛を育てるんです」。
現在、「あか毛和牛」は国内需要が上昇中。目下の課題は生産量の増加ということで、協会では受精卵移植事業などのプロジェクトを進めているという。
また、より品質の高い「あか毛和牛」の肥育を推進するため、あか毛和牛協会では独自の認定制度を制定している。「肉質」のみならず、その背景にある飼料の品質や放牧方法など、「育て方」も重視し、「あか毛和牛」を評価している。
「我々は、実際にあか毛和牛が育つ現場を知るため、あか毛和牛協会より最高賞の三ツ星に認定された「神内和牛あか」を育む北海道の神内ファーム21を訪ねてみることにした。
雄大な北の大地が育てる「神内和牛あか」
北海道の中西部、樺戸(かばと)郡浦臼(うらうす)町の豊かな自然の中に、神内ファーム21はある。全体の面積はなんと240haという広さだ。
広く開けた空の下に山々が連なり、視界いっぱいに緑の草原が広がる絶好のロケーション。この北海道の大地を活かし、牛の肥育に取り組みたいと、熊本県から「あか毛和牛」を取り入れ、試行錯誤の末、今では約1000頭もの「あか毛和牛」を飼育している。
広大なこの地を神内ファーム21の専務取締役、野笹雅章さんに案内いただいた。
「春に牛を放牧したら、あとはもうそのまま大自然の中で育てています。ただ、冬の時期だけは積雪量が14メートルにもなってしまうので、牛舎で育てます。餌の草が雪の下敷きになって食べられないですからね」と野笹さんは話す。放牧中は朝と夜に飼育員が見回りをし、草を食べ尽くしてきたら別のブロックへと移動させる。
神内ファーム21生産部では牛の繁殖から肥育までを一貫して実施。仔牛はここで産まれて、そのまま母牛と一緒に3~4ヶ月間、過ごすことができる。肥育を担当している畜産スタッフの榊原雄一郎さんは、この環境が「神内和牛あか」に欠かせないものだと言う。
「母牛と一緒に過ごすことで、仔牛は初乳がたっぷり飲めます。そうすることで、お母さんからの免疫を十分に得られ、身体の強い牛になるのです。さらに神内ファーム21の牛たちは見た目にも足が太くてがっしりしていますよね? 母乳を飲み、放牧で足腰が鍛えられることでしっかりとした骨格ができ、良い骨の周りに良い肉が付いていくんです。また、成牛には自家栽培の国産トウモロコシを飼料として与え、『あか毛和牛』特有の適度な脂身を作っています」。
仔牛の頃からストレスのない環境で育つことで、牛たちは性格的にも穏やかだという。「あか毛和牛」の美味しさは、この雄大な北の大地と大自然のもと、牛たちがのびのびと育っていくことで生み出されている。
赤身の美味しさを楽しむ
旨みたっぷりの赤身を味わうには、その美味しさをしっかりと噛みしめたい。野笹さんに「神内和牛あか」の美味しい食べ方を伺った。
「『あか毛和牛』は放牧し、牧場を走り回っているので筋肉質の肉となります。赤身が強く肉本来の味がしっかりしていて、食べごたえがあります。一番のおすすめはシンプルにステーキですが、さっぱりしているのですき焼きなんかもいいですね。脂身の量は黒毛の約1/3。つまり黒毛の3倍は食べられるということですね(笑)」。
和牛といえば豊かなサシの入った“霜降り”が人気を集めてきた中、肉本来の味が楽しめあっさりとした味わいの赤身肉が台頭してきた近年。日本が世界に誇る“和牛”の一つとして、「あか毛和牛」が国内だけではなく、世界から注目される日もそう遠くないはずだ。