中津川の伝統の味覚を今に伝える「栗きんとん」
御栗菓子 松月堂の「栗きんとん」について、おすすめポイントを紹介しよう。
創業当時からの製法を徹底
創業100余年の松月堂では、鍋で栗を炊き上げる伝統製法を徹底している。鍋肌についた「おこげ」は、実店舗での購入者にサービスしており(※早くに終了の場合あり)、好評を博している。
使う材料は旬の和栗と砂糖のみ
「栗きんとん」は、国産栗と砂糖だけで製造する。これにより、栗本来の風味を余すことなく堪能できる。
アレンジが冴えわたる、創作和菓子
松月堂は、新商品の開発にも積極的。「栗きんとん」をアレンジした「栗苞(くりづつみ)」や「久里柿(くりがき)」などもリピーター多数。
かつて宿場町として栄えた“栗の里”
岐阜県美濃地方の東端に位置する中津川市。東は木曽山脈、南は三河高原に囲まれた自然豊かなまちで、その中央を清流「木曽川」が流れる。
交通の要衝として栄え、江戸時代は江戸と京都を結ぶ「中山道」の宿場町が築かれた。一帯が栗の産地であったことから、行き交う旅人は栗料理や栗菓子でもてなされたという。
その習慣は現代においても変わらず、市内では一年を通して様々な栗スイーツが楽しめる。その代表格ともいえるのが「栗きんとん」だ。
「栗きんとん」というと、多くの人が栗の甘露煮とさつまいもを和えたきんとんを思い浮かべるだろう。いわゆる、お正月のお節料理で見かけるタイプだが、中津川市では栗と砂糖を炊き上げて、茶巾絞りした「栗きんとん」が食べられている。
新栗が出回りはじめる例年9月から、出荷のピークを迎える11月にかけて、市内の和菓子店に「栗きんとん」が並ぶ。9月9日の「栗節句」は欠かすことのできない行事で、当日は地元菓子組合の加盟店が集結。JR中津川駅前で神事を執り行ったあとに、栗きんとんを無料配布する。
いまなお伝統製法を貫く「栗きんとん」の元祖
中津川市で「栗きんとん」が商品化されたのは、明治時代の中頃だと考えられている。100年以上の長きに渡り、独自の味を追求してきた「御栗菓子 松月堂」の創業は1907年だ。
「伝統を重んじつつ、味は時代に合わせてアレンジしています」と、店長の曽我鮎美さん。ひと昔前は果肉のつぶが入った「栗きんとん」を販売していたが、現在はそれをやめて口あたりの滑らかさを重視している。
「栗きんとん」に使う材料は、国産栗と砂糖のみ。鮮度を重視して、仕込みは販売当日の早朝に行われる。ていねいに裏ごしした「栗きんとん」は、とろけるような口あたり。甘さが控えめな分、栗本来の風味をダイレクトに味わえる。
「栗は繊細な食材なので、炊き上げるときに細心の注意を払います。1時間近く手を動かしているので根気も必要。栗を加熱していると鍋肌に『おこげ』がつきます。香ばしくてこれはこれで美味しいのですが、栗の風味を損なうので上手くよけなくてはなりません」
おこげができるのは、鍋を使う伝統製法ならではのこと。常連客の間では「まぼろしのおこげ」とも呼ばれており、実店舗で「栗きんとん」を購入した人にサービスすることもあるという。
従来の枠組みにとらわれない栗菓子に挑戦
「松月堂」は伝統的な「栗きんとん」を活かした商品開発にも力を注いでいる。「栗きんつば」や「栗羊羹」などの定番商品は、ほんの序の口。「栗かすてら」や「『栗きんとん』ぷりん」、栗入りブラウニーの「まろんdeロマン」のように洋菓子のエッセンスを取り入れた一品も少なくない。「松月堂」の商品開発のあゆみを、曽我さんは次のようにふりかえる。
「初代店主、二代目店主は頑固一徹の菓子職人だったと聞いています。『松月堂』に新しい風が吹きこまれたのは、三代目が店を継いだ1970年代から。中津川の『栗きんとん』を広く知ってもらうため、『松月堂』の味を伝えるために商品開発に乗り出したそうです」
「栗きんとん」と並ぶ、人気商品が「栗苞」だ。「栗きんとん」を本葛で包んだ涼しげな一品。栗の素朴な甘みと葛のもっちりとした食感が味わえて、つるりといただける。アレンジも多彩で、これに季節のフレーバーを加えた「桜 栗苞」や「レモン栗苞」なども展開している。
「久里柿」も多くのリピーターに支持されている。長野県産の高級干し柿「市田柿」を丸々一個使い、中に「栗きんとん」をたっぷり詰めこんだ。シンプルな和菓子だが、満足感は見た目以上。「市田柿」と「栗きんとん」による、異なる甘みのコントラストに思わずうなる。
「斬新なアイデアであればいい、というわけではなく、ちゃんと栗の持ち味を活かさなくてはなりません。お客さまをがっかりさせないように、うちの味から逸脱することも厳禁です。毎回、頭をひねっていますが、そこが栗菓子の面白いところ。日頃からリサーチを行っており、現在は京都の抹茶を使った商品を構想中です」
2023年7月には久しぶりの新作となる、栗きんとんソース「游水晶(ゆうすいしょう)」が登場。「栗きんとん」の美味しさはそのまま、時代のニーズを柔軟に取り入れ、次の100年を見据えている。