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命をあますことなくいただく。大阪・関西万博でも提供されるジビエを食肉の新しいスタンダードへ
日本ジビエ振興協会代表/「オーベルジュ・エスポワール」料理長 藤木徳彦さん

そんななか、ただ野生動物を狩るだけでなく、食材として楽しもうと、さまざまな取り組みを行ってきたのが、長野県・蓼科にある「オーベルジュ・エスポワール」の料理長であり、日本ジビエ振興協会代表の藤木徳彦さんだ。
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、農林水産省からジビエに関する出展も行われるということで、今回は日本におけるジビエの利活用の歩みについて、藤木さんにお話を聞いた。
地場の食材としてジビエを発掘。利活用への道を探った10年間
藤木さんがジビエの魅力に気づいたきっかけは何だったのでしょうか?
20歳の時、研修で訪れたフランス・ブルゴーニュのオーベルジュで初めてジビエを食べて感動しました。それまで鹿や猪は野生にいる動物だという認識でしたが、食べるとこんなに美味しいのかと。またジビエだけでなく、地元の食材とワインを提供し、そのストーリーをお客様にしっかりと語ってくれる。土地の魅力を体感できるのが、オーベルジュなのだと知った体験でした。

「オーベルジュ・エスポワール」では創業当時からジビエを提供されているんですよね。
1998年の創業当時から当店の代表的な食材になっています。当時はジビエの食肉処理施設が整備されていなかったので、猟師さんから直接買い付けて「信州ジビエ」として提供していました。遠方からもお客様が来てくださるほど評判になり、長野県と協働して公式に「信州ジビエ」としてPRをすることになったんです。
その活動が広がり、日本ジビエ振興協会を立ち上げることになったんですね。
ジビエ普及に取り組むなかで、全国各地で害獣被害が拡大している問題や、狩猟した野生鳥獣の90%が捨てられてしまっている現状を知りました。ジビエの食肉としての価値を世の中に伝えることができたら、被害に困っている地域の助けになり、同時に美味しいものを楽しむことにも繋がる。料理人の自分ならその役割が果たせるかもしれないと、2012年に日本ジビエ振興協議会(のちの日本ジビエ振興協会)を設立しました。それ以降、農林水産省や厚生労働省と連携しながら、全国の自治体や企業と一緒にジビエの振興に努めてきました。

これまでどのような活動をされてきて、どのようなハードルがあったのでしょうか。
この10年はいわばインフラ整備でした。というのも、ジビエを食べる文化自体は全国各地にあるものの、牛や豚のような一般流通する食肉として扱うためのルールが全くなかったんですね。衛生面などの安全性、トレーサビリティなどを管理するために、厚生労働省と共にガイドラインをつくり、全国700以上の処理施設でしっかりとジビエの加工・流通が管理できるように整備。その後、2018年には農林水産省が「国産ジビエ認証制度」を制定しました。
「国産ジビエ認証制度」ではどのようなことが定められているのでしょうか?
例えば適切なラベル表示によるトレーサビリティの確保を図ること。商品名はもちろん、消費期限や賞味期限、保存方法を表示することを遵守することとしています。加えて処理施設では、いつ、どこで、誰が捕えたものかという情報も把握できるように管理されています。消費者もラベル表示や二次元コードなどで、捕獲、処理、加工に関する情報を確認することができます。
また異物混入を防止するために、金属検出機検査を行うこと。そして、これまで猟師が我流で行っていた部位ごとの取り扱い基準や名称を改め、統一的なカットチャートを作成し、流通規格を遵守することも定められました。
また異物混入を防止するために、金属検出機検査を行うこと。そして、これまで猟師が我流で行っていた部位ごとの取り扱い基準や名称を改め、統一的なカットチャートを作成し、流通規格を遵守することも定められました。
ジビエの魅力とこれからの課題
藤木さんが思うジビエの食材としての魅力を教えてください。
料理人としてこんなに面白い食材はないと思います。家畜と違って天然物ですから、個体によって味にも食感にも個性があり、一つ一つ向き合って料理に仕上げていかないと魅力が引き出せないんです。
例えば家畜の肉はメス、去勢されたオスしか市場に出回ることはありません。ですが鹿や猪のオスはスパイスと相性が良く、カレーや煮込み、中国料理などにすることで、オスらしい力強い味わいが生かせます。逆にメスや子どもはローストなど、そのまま食べる料理に向いています。
また狩猟された地域で肉質が異なるのも天然ならでは。例えば鹿児島の猪は芋を食べているので脂が甘いし、千葉のものは栗や木の実を食べているからイベリコ豚のような風味があります。手に入ったジビエの個性を見極めて、我々も料理するようにしています。また低脂肪で高タンパク、赤身でさっぱり食べられることも魅力ですね。
例えば家畜の肉はメス、去勢されたオスしか市場に出回ることはありません。ですが鹿や猪のオスはスパイスと相性が良く、カレーや煮込み、中国料理などにすることで、オスらしい力強い味わいが生かせます。逆にメスや子どもはローストなど、そのまま食べる料理に向いています。
また狩猟された地域で肉質が異なるのも天然ならでは。例えば鹿児島の猪は芋を食べているので脂が甘いし、千葉のものは栗や木の実を食べているからイベリコ豚のような風味があります。手に入ったジビエの個性を見極めて、我々も料理するようにしています。また低脂肪で高タンパク、赤身でさっぱり食べられることも魅力ですね。

ジビエの“旬”について教えてください。
秋から冬が美味しいと思われがちなのですが、実は鹿は夏が美味しいです。草食動物なので冬は餌がなくなって痩せてしまいますが、春になって新緑や山菜が出てくると青い草をいっぱい食べる。ほとんど脂のつかない鹿が初夏だけは脂が乗るんです。逆に猪は寒い間に脂を蓄えるので、秋から冬の間が“旬”です。一年を通して有害鳥獣捕獲を行っている地域もあるので、夏の鹿も食べることができますよ。
ジビエを安心安全に楽しむために、解決するべき課題はなんでしょうか。
提供者にも消費者にも「国産ジビエ認証制度」などの基準を浸透させていくことだと思います。また調理法を間違ってしまったがゆえに、ジビエが美味しくないと誤解されてしまうケースもある。まずはジビエを正しく供給・提供するプレイヤーが育っていかないといけないと思います。

ジビエを日常の食卓へ。大阪・関西万博では世界にも発信。
2025年6月には、大阪・関西万博「食と暮らしの未来ウィーク」で、ジビエのブースが設置されます。来場者にどんなことが伝わればいいと思いますか?
万博では動画と体験型コンテンツを通して、害獣被害に対する農林水産省の取り組みを紹介したり、国産ジビエ認証を取得したジビエ料理の試食が行われます。試食を通じて「ジビエってこんなに美味しいんだ」と、皆さんに知っていただけたら幸いです。
また海外の方に日本の取り組みを知ってもらう良い機会にもなると思っています。害獣被害は全世界で起きていますが、国をあげて対策をしているのは日本だけ。世界的に食糧難やSDGsが叫ばれるなか、安心安全にジビエが食べられる環境を整えて、大切な命としてきちんと食べようと発信することは、今回の万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマにもぴったりですよね。
また海外の方に日本の取り組みを知ってもらう良い機会にもなると思っています。害獣被害は全世界で起きていますが、国をあげて対策をしているのは日本だけ。世界的に食糧難やSDGsが叫ばれるなか、安心安全にジビエが食べられる環境を整えて、大切な命としてきちんと食べようと発信することは、今回の万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマにもぴったりですよね。

これから藤木さんが目指すジビエの未来はどんなものなのでしょうか。
この先は、ジビエの価値を上げていかないといけないと思っています。牛や豚の代わりではなく、捨てられる肉だから食べるのでもなく、「ジビエでなければならない理由」を、私たち料理人が提案していく必要があると感じています。正しい管理や調理法、魅力を最大限に引き出す料理をつくり、消費者にジビエの価値を伝えていきたい。最終的にはスーパーにジビエ肉やジビエの惣菜が並び、各家庭で日常的に楽しめる未来が訪れればいいなと思います。
大阪・関西万博で体験するジビエの魅力
農林水産省は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)にて「食と暮らしの未来ウィーク」期間中に、国税庁・文化庁と協力し「RELAY THE FOOD~未来につなぐ食と風土~」と題し、日本の食・農林水産業の魅力を現地にて発信しています。「ジビエ」に関してもジビエのブースやステージイベントへ出展をおこない、身近な「ジビエ」として根付くよう目指しています。ぜひ一度、足を運んで見てください。
【開催期間】
2025年6月8日(日)~2025年6月15日(日)
【会場】
EXPO メッセ「WASSE」イベントホール 南側 ジビエブース、EXPOメッセ「WASSE」内ステージ
【出展内容】
映像やデジタルジオラマでジビエの魅力を伝えていくとともに、国産ジビエ認証制度を取得した処理施設のジビエの試食も予定しています。ご賞味ください。
【関連URL】
大阪・関西万博ジビエ出展(https://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/expo.html)
大阪・関西万博 農林水産省特設WEBサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/relay-the-food/index.html)

Writer : ASAKO INOUE
/
Photographer : YUTA SUZUKI