お祝い事の定番「お赤飯」のルーツと拡がりを辿る
飛鳥時代までさかのぼる、お赤飯のルーツ
子どもの成長や長寿など、おめでたい席でふるまわれる「お赤飯」。おこわの一種で、もち米と小豆を蒸してつくるレシピが広く浸透している。赤褐色の見た目をしているのは、小豆の煮汁をもち米に吸収させて蒸し、打ち水としても煮汁を使用することが多いため。もっちりとした食感で、噛めば噛むほど、もち米と小豆の素朴な風味が広がる。独特の味わいに根強いファンも少なくない。
「お赤飯」の源流は、飛鳥時代から行われている新嘗祭(にいなめさい) に見ることができる。五穀豊穣を祈り、感謝する収穫祭で、このとき奉納品のひとつとして赤米が捧げられる。「赤米」というだけあって、タンニン系の赤い色素を含んでおり、炊き上がると「お赤飯」のような見た目になる。
「日本では古くから、赤色に邪気を払う力があると信じられてきました。赤米が神事の必需品だったのもうなずけます」
そう話すのは、赤飯文化啓発協会 事務局の児玉憲治さん。赤飯文化啓発協会は、お赤飯の消費拡大への活動を通じて、世界に誇れる日本の食文化の継承及び国内自給率の向上に努めており、「お赤飯」の魅力発信に取り組んでいる。
児玉さんによると、平安時代に執筆された「枕草子」にも小豆粥にまつわる記載があるという。身近なお祝いで食べられるようになったのは室町時代に入ってからだが、当時はまだ特権階級を中心にした習わしだった。
江戸時代に入ると「お赤飯」も現代のスタイルに近づいていく。稲作技術の発展によって、これまで高級品だった白米が赤米に取って代わり、庶民の間でも親しまれるようになった。それでも、祝い事に赤米を用意する文化は廃れることがなかったので、小豆で色づけした白米のごはんが代用品として広まったという。
やがて、赤米よりも「お赤飯」の方が主流になり、様々な行事やお祝いに登場するようになったという。なお、「お赤飯」にはナンテンの葉が添えられることがある。あれは「難(なん)を転(てん)じる」という語呂合わせから。また、ナンテンの葉がもつ防腐作用を利用した、昔の人たちの暮らしの知恵でもある。
生活様式が多様化した現代、改まって「お赤飯」を用意することは少なくなった。しかし、赤飯文化啓発協会が作成した「お赤飯カレンダー」には、お赤飯を食べる行事が目白押し。元旦にはじまり、節分の厄除け、桃の節句、母の日、お盆、敬老の日……大晦日といった具合に、おおよそ月一ペースで機会が訪れる。そこに成人式や結婚式、還暦祝いなどのライフイベントを加えると、「お赤飯」の出番はさらに多くなる。
「一昔前までは、自宅でお赤飯をつくる習慣がありました。幼少時代、学校から帰って『お赤飯』が用意されていると、なにかいいことがあったのだとワクワクしたものです。最近は炊飯器の機能も増えているので、自宅でも気軽に『お赤飯』がつくれますよ」
ご当地食材と深く関わる、お赤飯の多様性
「お赤飯」の材料は、必ずしももち米と小豆の組み合わせだとは限らない。地域によってお雑煮の材料やレシピが異なるように「お赤飯」も多種多様だ。たとえば、関東地方では小豆ではなくささげを使った「お赤飯」もよく食べられている。どちらも似通った見た目にもかかわらず、なぜささげが支持を得ているのか。
「それは江戸の武士たちのこだわりが関係していると言われています。小豆は皮が薄いため、加熱すると「胴」の部分から割れてしまうことがあります。これが切腹を連想させるから、と武士たちが嫌がったため、ささげで代用するようになったのだとか」
こうしたケースに限らず、赤飯文化啓発協会は全国各地のご当地お赤飯を調査している。その一部を児玉さんが紹介してくれた。
●甘納豆赤飯
・北海道/東北地方/山梨県で食べられている。
・小豆ではなく甘納豆を使った甘いお赤飯。
・ごはんの赤みは、食紅で色づけしたもの。
・紅生姜を添えることもある。
●落花生赤飯
・千葉県の一部で食べられている。
・千葉県の特産品である落花生を使っている。
・落花生の甘露煮を使ったり、小豆を混ぜ込んだりするなど、レシピは多彩。
●醤油赤飯
・新潟県長岡市を中心に食べられている。
・ごはんは醤油だれで味つけ、色づけしている。
・小豆の代わりに金時豆を使う。
●いも赤飯
・福井県大野市を中心に食べられている。
・小豆と名物のさといもが混ぜ込まれている。
●三色赤飯
・福岡県柳川 市を中心に食べられている。
・クチナシと小豆で色づけしたもち米にうるち米を混ぜ込んでいる。
・赤色・黄色・白色のカラフルなお赤飯に仕上がる。
●ごま砂糖赤飯
・徳島県の鳴門地方を中心に食べられている。
・ごま砂糖をふりかけた甘いお赤飯。
「ご当地お赤飯が生まれた理由については、まだ調査の余地があります。ただ『落花生赤飯』や『いも赤飯』などの例を見ると、各地の特産品を応用して自然発生的に考案されたものなのかもしれませんね」
赤飯文化啓発協会は、古来より日本人の慶びの食事や、ハレの日の食卓に欠かせなかったお赤飯の歴史と伝統の継承を目的として、2010年に11月23日を「お赤飯の日」と制定。11月23日は新嘗祭が行われたり、勤労感謝の日でもある、感謝の気持ちを伝える日。当日は、東京の明治神宮 参道 フォレストテラス明治神宮脇で「お赤飯」の無料頒布を開催するのが協会の恒例行事になっている。「『お赤飯』を食べる文化を見つめ直すきっかけになれば」と、児玉さんも期待を寄せる。古くから親しまれてきた「お赤飯」の美味しさは言わずもがな。そこにハレの日が重なれば、食後の満足感もひとしおだ。