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THE ROOTS OF SHUN (April 2015)

地域の食文化と料亭の味が生んだ「牛肉しぐれ煮」

― 三重県 桑名市

(取材月:January 2015)

南北に長い地形の三重県は地域によって気候風土が異なる特長を持つ。そうした特長と恵まれた自然から、三重県ではそれぞれの地域で個性豊かな食文化が育まれてきた。
木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)の河口で獲れる桑名のハマグリ、リアス式海岸を有する伊勢志摩の伊勢海老やあわび、温暖で穏やかな気候を持つ中南勢地区の松阪牛や南紀のみかんなど、多種多彩な食材を活かした個性的な食文化を体験できる。
そして、今も、こうした三重の食文化を背景に生まれた郷土料理は地域の知恵と共に発展をしている。

地元の伝統製法が美味しい「牛肉しぐれ煮」を作る

三重県の北部に位置する桑名市。ここ桑名市は木曽三川と呼ばれる木曽川、長良川、揖斐川の河口があり、淡水と海水が混ざりあう栄養豊富な漁場を持つ。
この恵まれた漁場で獲れるのが、桑名市の名産、ハマグリである。桑名市のハマグリの歴史は古く、江戸時代に発行された「東海道中膝栗毛」にも登場し、三重の特産品として歴代将軍に献上されていたという。

そのハマグリを使った桑名市の有名な郷土料理が「ハマグリのしぐれ煮」。「ハマグリのしぐれ煮」は多めのタレの中で素材を浮かべながら炊き上げる“浮かし煮”と呼ばれる製法で作られている。浮かし煮は、タレが無くなるまで煮詰める佃煮よりも、ふっくらと仕上がるため、ハマグリ自体の食感を活かすことができる桑名市の伝統製法である。

現在では、この桑名市の伝統製法を用いる「しぐれ煮」はハマグリだけではなく、他の食材にも応用され、全国に広がっている。
牛肉を使った「牛肉しぐれ煮」もその一つであり、桑名市の牛鍋料亭のまかないから生まれたという。我々はそのルーツを探るべく、桑名市にある、明治4年(1871年)創業の柿安料亭本店を訪れた。

「牛肉しぐれ煮は柿安三代目社長の奥さん・赤塚ひでさんが考えたものです。料亭で余る牛肉の細切れを美味しく食べようと、柿安に代々伝わる秘伝のタレを使い、桑名の伝統製法の浮かし煮で作ったのが始まりです」。
そう教えてくれたのは、柿安料亭本店店長の田中純子さん。

最初は、まかないで始めた「牛肉のしぐれ煮」は次第にお客さんたちに知れ渡り、その評判を得て、料亭のメニューに並ぶことになる。その後、「牛肉のしぐれ煮」はお土産物としても人気となり、たちまち全国に広がっていった。
その人気の裏側には、地域の伝統製法で作る味と、創業以来ずっと牛肉のプロとしての歴史を築いてきた料亭の製法と素材に対するこだわりが隠されていた。

木曽三川写真

ハマグリ写真

田中さん写真

素材から作り方まで。牛肉のプロが徹底管理

「牛肉しぐれ煮」はシンプルであるがゆえに素材の良さがとても重要だ。柿安の「命」ともいえる牛肉は、牛の肥育の段階から目利きたちがしっかりと選別し、自社工場で加工から出荷までを行っている。柿安ミートセンターの工場長である谷口さんに、牛肉へのこだわりを伺った。

「当社は畜産農家と一緒になって牛の肥育から取り組むことで牛肉の品質を守っています。格付け等級だけでなく、肉質・脂質・ツヤや肉の照り・張りなど、40数年の経験を持つ目利きが定める厳しい基準があり、その基準を満たす肥育環境を整えている畜産農家のみを指定牧場としています。もちろん『牛肉しぐれ煮』用の牛肉もそうした牧場のもので、肉質や脂質のバランスなど柿安独自の配合をして炊くことで美味しくなる品質のものを使っています」。

徹底したこだわりは製造の現場にもある。桑名市内にある「牛肉しぐれ煮」の専門工場「しぐれセンター」では丁寧な職人の手仕事を見ることができる。
「『牛肉しぐれ煮』で何よりも大事なのは食感です。塊になりすぎてもボロボロになりすぎても美味しくない。肉の状態を見ながら炊き上げるので、手作業じゃないと作れないんです」。そう話してくれたのは調理担当の俵賢二さんだ。

牛肉しぐれ煮に使う肉はすき焼き用にしても申し分ないほど美しいサシが入った牛肉。
素材の良さを引き出すため、直火よりもじっくりと火を入れることができる特注の蒸気釜を使用して丁寧に調理していく。

まずは酒、水、醤油などを独自の配合でブレンドしたタレと牛肉を15?20分ほど煮込んでから、牛肉が崩れないように大きな木製のしゃもじで優しく混ぜる。しゃもじに牛肉が当たった時の感覚を頼りに、火加減を微妙に調整しながらほどよい炊き具合に仕上げ、最後に余分な脂を取り除けばふっくらとした牛肉しぐれ煮の完成だ。この食感を出すには最低でも1年ほどの時間をかけて職人の勘を養わなければいけないと俵さんはいう。

俵さん写真

  • 牛肉写真
  • 調理過程写真

銀座で味わう老舗の牛肉料理

柿安が培ってきた目利き力、職人の技が光る牛肉料理に東京で出会えるのが、観光地としても人気の銀座にある「柿安 銀座店」だ。

落ち着いた和の空間の中で「牛肉しぐれ煮」をはじめ、「松阪牛」や自社ブランドの「柿安牛」を使ったすき焼やしゃぶしゃぶなどを楽しめるとあって、ランチ、ディナーともに盛況だ。

このお店で出される「牛肉しぐれ煮」には、贅沢にも松阪牛を使用。140余年の歴史をもつ柿安秘伝の“わりした”で料理人が丁寧に炊き上げる。牛肉は、春ならば竹の子といった具合に、“旬”の食材と合わせて炊いていくので、料亭らしい季節を感じられる味わいを楽しめる。

目移りするような数々の料理の中で人気なのは、ディナーメニューの「すき焼コース〈松阪牛ロース〉」。“旬”の食材を使った前菜からお造りと続き、大判の松阪牛を仲居さんがすき焼きに仕上げてくれる。

料理長の村石浩司さんに美味しいすき焼きの食べ方を尋ねてみたところ、「まずはお肉だけを食べて、牛肉そのものの味を堪能してください。その後、野菜を煮たら、最後はお肉に大根おろしを絡ませて食べるのがおすすめです」。

牛肉にこだわり抜いた柿安が誇る本場の味を、銀座で味わってみてはいかがだろうか。

柿安銀座店写真

すき焼きコース写真

地域に根付く伝統製法と料亭の味が出会ったことで生まれた「牛肉しぐれ煮」。
地域に伝わる食文化は、食材や製法に対する地域の料理人の味の追及と知恵によって、これからも発展を重ねていく。

Writer : ASAKO INOUE / Photographer : CHIZU TAKAKURA

株式会社 柿安本店

本社所在地 三重県桑名市吉之丸8
TEL 0594-23-5500
URL http://www.kakiyasuhonten.co.jp

柿安 料亭本店

住所 三重県桑名市江戸町36
*JR桑名駅から徒歩約15分
TEL 0594-22-5555
営業時間 11:30-21:00(ラストオーダー20:30)
定休日 なし

柿安 銀座店

住所 東京都中央区銀座7-9-15 GINZA gCUBE 7F
*地下鉄銀座線・丸ノ内線・日比谷線 銀座駅から 徒歩約3分
TEL 03-3289-3771
営業時間 ランチ 11:30-15:00(ラストオーダー14:30)
ディナー 17:00-22:00(ラストオーダー21:00)
定休日 なし

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