吹き荒れる“伊勢の風”が旨みを閉じ込める個性派トマト

三重県伊勢市
ぱりぱりとまと
(取材月: April 2018)
全国から多くの人が訪れる伊勢神宮を擁する三重県伊勢市。比較的温暖な気候と豊富な雨量、周囲の海や川からのミネラルをたっぷり吸い込んだ肥沃な大地など、農作物にとって著しく恵まれた自然環境が、栄養価が高く味のしっかりとした食材を育んでくれる。

温暖な気候を好むトマトは、伊勢を代表する美味しい食材の一つだ。伊勢の風土を活かして独自のブランドを確立し、都内の消費者やシェフからも強い支持を得ているトマト農家がいると聞いて、その畑を訪ねた。

自然由来の栽培方法で、野菜らしいトマトにこだわる

ぱりぱりとまと

伊勢市小俣地区の農家である谷口順吾さん。代々受け継いできた畑でハウス栽培をおこない、年間20万個ほどのトマトを出荷している。

栽培しているトマトは「ハウス桃太郎」。流通しているトマトの品種のなかでは、比較的ポピュラーな品種ではあるが、谷口さんの場合は、自然由来の栽培方法に徹底的にこだわることで、その美味しさを最大限にまで引き出している。

トマトのハウス栽培では、肥料を水に溶かした培養液によって育てる水耕栽培が主流だが、谷口さんはしっかりと耕した土を使って養分を与える土耕栽培を実践している。

ぱりぱりとまと

「水耕栽培の方が手間もかからず、均一に育つうえ、収穫量も多く、甘みの強い高糖度のトマトもつくれます。ただ、その代わり香りが弱いんですよね。デザートを食べているような感覚がするというか。僕はもっと青くさい香りのトマト、野菜らしいトマトがつくりたいので、土でつくるということを大切にしています」。

ぱりぱりとまと

トマト本来の香りを守るため、殺菌や消毒の作業でも、なるべく自然の力を頼り、農薬や化学肥料の使用は最低限に抑えている。薬剤を使用すると、どうしても薬剤の香りがトマトに付着してしまうからだ。そこで使用するのが「ふすま」と呼ばれる小麦の外皮や胚芽だ。畑全体に「ふすま」を敷き詰めて水を張り、表面を密封しながら太陽の熱を取り込むことで、土壌を消毒し、病原菌の数を減らす工夫がされている。薬剤に比べたら時間も手間暇もかかる作業だ。

伊勢の強風が、トマトの個性を引き出す

ぱりぱりとまと

そんな手間暇かけて育てられた谷口さんのトマトをさらに美味しくしてくれるのが、“伊勢の風”だ。

トマト栽培の周期は8月〜9月にかけて苗を植え、10月に色づきはじめ、6月中ごろまで収穫が続く。トマトがぐっと成育し始める夏〜秋の時期の伊勢地方は台風が通過する事が多く、また冬場は畑周辺に吹き荒れる北西風が非常に強いそうだ。谷口さんは本来ならば悩みの種となるこの強風を逆手にとり、ハウスの窓をあけて風を直接トマトに当てることで、他のどこにもない食感と風味のトマトをつくり上げている。

伊勢

「この辺りは風速20メートルぐらいの突風がビュンビュン吹くからね。最初は困ったものだと思っていたのだけど、風が当たることでトマトの皮がいい具合に乾燥してね。硬くて身の締まったジューシーなトマトができるんだよ。これも一つの個性だと思って出荷してみたら、案の定、お客さんからもウケがよかった」。

食べるとその乾燥した皮が「ぱりぱり」と音を奏でることから、ハウス内で窓から風が当たるエリアで育つトマトを「ぱりぱりとまと」と命名しブランド化。皮に食べ応えがあり、かめばかむほど旨みが広がる味わいが珍しく、都内のファーマーズマーケットなどを中心に瞬く間に評判を呼び、谷口さんの代名詞となったのだ。

「ぱりぱりとまと」が農業の楽しさを教えてくれた

ぱりぱりとまと

谷口さんが「ぱりぱりとまと」の販売を始めたのは5年ほど前から。それまでの30年間は、規格通りの均一な大きさに栽培したトマトを農協を介して市場に出荷していた。「ぱりぱりとまと」の存在が谷口さんの農業との向き合い方を大きく変えたという。

「以前は、いま思うと作業員みたいな感覚やったね。言われたことを言われた通りに育てて出荷するだけだった。でも、『ぱりぱりとまと』で直売を始めてからは、お客さんの反応がダイレクトに感じられるようになって。高い値段でも美味しければ喜んで買ってくれるお客さんが大勢いることを知った。もっと美味しいトマトをつくろう、もっと自分のトマトを知ってもらおうという気持ちが湧いてきてね」。

ぱりぱりとまと

谷口さんは「ぱりぱりとまと」を、一般の消費者だけでなく、近郊のレストランや料亭にも積極的に紹介してまわり、次々と販路を拡大。多くの料理人からも重宝される食材として認められるようになった。そして、2016年の伊勢志摩サミットの際には、メイン会場となった「志摩観光ホテル」で各国の首脳陣に振る舞われたコースメニューの前菜に、谷口さんのトマトが採用されたのだ。一流シェフの手によってアレンジされた谷口さんのトマトが世界のVIPの舌を唸らせ、現在も同ホテルのレギュラーメニューとして定着している。

「最初に知らせを聞いた時はびっくりしました。本当に名誉なことで嬉しくて、農業を続けてきてよかったなと。後日、こっそり食べに行ったら、自分のトマトが想像以上に美味しくて。やっぱりシェフの力は偉大だなと(笑)。いまが一番農業やっていて楽しいです」。

伊勢ならではの自然環境の利点だけでなく、欠点をもポジティブなものとして捉え、谷口さんに大切に育てられた個性派トマト。その可能性は広がるばかりだ。

伊勢市の「ぱりぱりとまと」

情報提供:トマト農家・谷口順吾さん
ぱりぱりとまと

“旬”の時期

1月〜5月(気温が上がる前)

目利きポイント

ヘタや切り口が水々しくピンと張っているもの
全体が赤く丸みがあり、色むらがない
果皮はうっすら産毛がみられ、ハリと重みがある。

美味しい食べ方

カプレーゼのように生で食べるのもよし。
加熱調理してトマトスパゲティにしても美味しい。

Writer : TAICHI UEDA
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Photographer : SATOSHI TACHIBANA

こだわりのトマトとメロン作り 谷口

所在地 三重県伊勢市小俣町相合610-1
TEL 0596-22-2896
URL http://tomatotomelonya.com/

※こちらの情報は取材時のものです。最新の情報は各店舗にお問い合わせください。

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