季節と出逢う「春の和菓子」

季節と出逢う「春の和菓子」
四季折々の情景を美しく表現し、限られた時期にしか出逢えない季節の和菓子。古くは宮中の年中行事にちなんだご馳走であったが、現代では季節の移り変わりを告げる存在となっている。今回は、東京 神楽坂にある老舗和菓子店「五十鈴(いすず)」の和菓子とともに、春の訪れを告げる和菓子をご紹介しよう。

春の和菓子

●桜道明寺

●桜道明寺

関西地方を中心に「道明寺」と呼ばれる関西風桜餅。大阪の道明寺で戦国時代に作られていた保存食に由来してこの名前が付いたという。もち米を砕いて蒸した餅で餡を包み、桜の葉で包んでいる。桜の塩漬けが見た目にもアクセントとなって春らしさを添えている。

●桜餅

●桜餅

関東風の桜餅は「長命寺」とも呼ばれ、東京の長命寺で、隅田川沿いの桜の葉を使いつくったことに由来する。小麦粉をベースにつくる桜色のクレープ生地には、白玉粉も用い、もちっとした食感。こし餡と桜の葉の塩気のバランスが楽しめる。

●草餅

●草餅

春先に新芽の出るヨモギを使った草餅は、古くは蓬(ヨモギ)餅と呼ばれ邪気を払うといわれている。春の訪れを感じさせる鮮やかな緑色は、天然のヨモギ色。蒸したヨモギをなめらかで歯切れのよい餅に練りこみ、餡を包む。この季節ならではの生命力溢れる色と香りを楽しみたい。

●桜薯蕷(さくらじょうよ)

●桜薯蕷(さくらじょうよ)

薯蕷とは大和芋、山芋、つくね芋などのこと。これらの芋をすりおろして生地に練りこみ蒸し上げたのが薯蕷饅頭だ。「五十鈴」では大和芋をつかい、ふっくらとやわらかな皮に仕立てた饅頭に、この季節ならではの桜の塩漬けを添えており、春の香りを楽しめる。

●春の上生菓子「うぐいす」

●春の上生菓子「うぐいす」

春の訪れを告げる鳥、うぐいすの上生菓子はさわやかな鶯色でころりとした形がかわいらしい。春の茶の席にぴったりの存在。

●春の上生菓子「つくし」

●春の上生菓子「つくし」

なんとも珍しい、つくしを象った菓子。職人が1点1点手間暇をかけて、春の野にひょっこりと現れるつくしを甘美な和菓子に表現した。

※掲載している和菓子の名称は「五十鈴」での販売名です。地域によって呼び方が異なるものがあります。

春の和菓子は「色」と「香り」で楽しむ

春の和菓子

「五十鈴」代表の相田茂さんに、春の和菓子の楽しみ方についてお話を伺った。

「この季節の和菓子は、自然のよい香りを生かしたものが多くあります。見た目の色合いはもちろんのこと、香りも楽しんでいただきたいですね」と、相田さん。

例えば「五十鈴」では、桜餅などに使われる桜の葉の塩漬けは、香りが高く柔らかで食感の良い葉が特長の伊豆松崎の大島桜を使用しているそうだ。緑色が美しい草餅には、長野県産の香りが強い天然のヨモギを使用している。産地によっては昔に比べヨモギ自体の香りが弱くなっていたり、柔らかくするために薬品処理をしていることもあるというが、「春を感じさせる本物の香りだけを和菓子にしたいから材料探しにはこだわっています」と、相田さん。

春の和菓子

また、餡づくりに使われる小豆にも強いこだわりを持っている。近年、北海道産の小豆のなかでも、収穫量を上げるために冷害に強い品種が増えているという。しかし冷害に強く品種改良した小豆は、皮が固いため餡にしたときに口の中に残ってしまう。「五十鈴」では、冷害には弱いがやわらかさや香り・食感を重視した小豆の品種を選定。さらには、上白糖に比べ、純度が高く雑味の少ない氷砂糖や大粒のざらめを使用するなど材料にこだわり餡づくりをしている。

「和菓子づくりは職人の技術・感性に加えて、良い材料をそろえられるかが非常に重要です。先代から築きあげられてきた和菓子の伝統を守り、食べる人に満足していただくためにも素材と真剣に向き合っています」と相田さんは語る。

ひな祭り・卒業式・入学式など様々な行事や、お花見などのシーンで親しまれている春の和菓子。暖かな季節の訪れを、美しい色合いと春らしい香りで楽しんでみてはいかがだろうか。

Writer : KAORI NOZAWA
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Photographer : YUTA SUZUKI

神楽坂 五十鈴

神楽坂 五十鈴
所在地 東京都新宿区神楽坂5-34
TEL 03-3269-0081
定休日 日曜日、祭日(こどもの日、お彼岸は営業) ※その他不定休があります
営業時間 9:00-19:30
URL http://isuzu-wagashi.co.jp

※こちらの情報は取材時のものです。最新の情報は各店舗にお問い合わせください。

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