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THE ROOTS OF SHUN (June 2018)

世界も認める日本のクラフトビールの可能性

- 三重県伊勢市

世界も認める日本のクラフトビールの可能性

(取材月:April 2018)

大量生産のビールとは一線を画し、香りや苦みに個性を持たせ、味わいをじっくりと楽しむ“クラフトビール”の人気が広がっている。

クラフトビール先進国のアメリカではビール市場全体に占めるクラフトビールの流通量はすでに10%を越える。一方、日本ではわずか1%にも満たないのが現状ではあるが、作り手の技術や知識、その製品としてのクオリティの高さは既に世界が認めるところで、多くの権威ある世界的な品評会やコンクールで日本のメーカーが賞を獲得することも珍しくない。

無限のポテンシャルを秘める日本のクラフトビールの魅力を探るべく、国内を代表するクラフトビールの作り手の一つ、三重県伊勢市に拠点を構える「伊勢角屋麦酒」を訪れた。

限られた原料で、自由自在に味わいを操るビール職人

伊勢の中心地から車で15分程離れた、閑静な場所に位置する小さな醸造所。中に入ると既にビールの仕込みの真っ最中。ビール職人であり、伊勢角屋麦酒の代表取締役社長でもある鈴木成宗(すずき なりひろ)さんが、作業の合間を縫って、ビールづくりの手順や勘所を教えてくれた。

この日仕込んでいたのは、夏に地元で開催されるお酒のイベントで披露する予定のセゾンビール。セゾンビールとはビールの種類の一つで、ヨーロッパの農夫らが夏の農作業の間に喉を潤すために飲んでいた、アルコール度数が低めでホップの苦みとフルーティーな香りが特長のビールのことだ。

ビールづくりの主な原料は、麦芽、ホップ、酵母、水の4つ。香り付けのために加える副原料も存在するが、ビール職人は基本である4つの原料の種類と配合、そしてそれに見合った製法を調節することで、自分の狙ったビールの味を表現していくという。その組み合わせは無限で、ビールの味わいの行き先は、すべて職人の勘と経験に託されているそうだ。

今回のセゾンビールでは、麦芽は2種類の大麦と小麦を独自にブレンド。初期工程である麦汁作りでは、鈴木さんがタンクに付きっきりで、中身の温度をこまめに測りながら糖化時間を調整していく。

「ある一定の温度帯で麦芽の中にあるデンプンが糖に変わっていくのですが、デンプンをどのぐらいの時間分解するのかで、そのビールのボディ感(味わいの濃淡)が左右されます。今回は夏場のビールなので、すっきりさせたいこともあって煮込む時間を長くとります」。

麦汁が出来たら、ホップを混ぜて苦みを出し、その後、酵母を加え発酵させてビールを仕上げていくのだという。どんなホップを使い、どの酵母を組み合わせるのかは職人次第。鈴木さんの場合は、世界中から選りすぐった、それぞれ特徴が異なる30種類以上のホップと酵母を常時ストックし、表現したい味に合わせて使用している。

酵母は、醸造所の隣に顕微鏡など試験設備を整えた研究所まで作り、日夜、新たに仕入れた酵母の個性や働きを微細に観察し、データとして蓄積しているというから驚きだ。

「ビールへの愛情や職人としての勘はもちろん大切なのですが、ビールの原料のことを正確に理解し、数値やデータを使って、ビールづくりに向き合うことも非常に大事にしています。そうしないと味の再現性もない。『こんな味のビールをつくりたい』という熱意とそれを実現させるための科学的な視点もないと、本当に美味しいビールはつくれないのです」。

事実、鈴木さんが手掛ける伊勢角屋麦酒のビールは、毎年のように、世界的なビールコンペティションでグランプリを受賞している。その安定したビールのクオリティに魅了され、鈴木さんのもとでビールづくりを学びたいという若い職人が国内外から続々と集まってくるのも納得だ。

ビール職人

ビール職人

ビール職人

ビール職人

品質と徹底的に向き合うことで、“高くてまずい”を覆す

鈴木さんがビールづくりを始めたのは1997年頃。伊勢の地で創業440年を越える老舗餅屋の21代目であった鈴木さんが、本業の餅屋の傍ら、新規事業として立ち上げたのが、伊勢角屋麦酒だった。本人がビール好きであったこと、そして、その頃に酒税法が改定され少量生産でもビール製造が可能になったことが背中を押したという。

「変わらない味をずっと守り続けることが使命の老舗餅屋と、新しい味わいを常に探求できる自由なビールづくり、その両方にチャレンジしたかったのです。先代らが餅屋のほかにも醤油づくりや味噌づくりにも取り組んでいたこともあって、子供の頃から微生物に馴染みがあったので、ビールにもずっと興味を持っていました」。

知人を頼って大阪のビール職人のもとで修行し、周りを説得して設備投資に踏み切り、いざビールづくりに意気込んでみたものの、最初の5年間は苦境が続いた。

当時は、大手メーカーがつくるビール以外はまったく消費者に認知されない状況。また、規制緩和を受けて、いわゆる「地ビール」といわれるビールが全国的に急増はしたものの、その一方で品質の低い「地ビール」も多く流通され、消費者の信頼の獲得までは至らなかった。

「技術的な裏付けもなく、規制緩和の追い風だけでつくられたビールが多く存在しました。その影響もあって個人がつくるビールは、高くて美味しくないという声まであがっていました。それが悔しくて、徹底的に品質にこだわったビールをつくろうという気持ちが強くなりました」。

その後、ビールづくりの技術に更なる磨きをかけた鈴木さんは2003年に、遂に世界大会でグランプリを受賞する。翌年以降も受賞が続き、品質への確かな信頼が得られるにつれ、全国からの注文も急増し、経営は安定。いまや需要に生産量が追いつかず、新工場を構えることが決まっている。

クラフトビール業界全体の技術の底上げにも尽力。世界的なビアアワードの審査委員会に携わるほか、自社で蓄積した酵母やホップなどのデータを他社にも積極的に共有。若い職人の研修も受け入れている。

「過去の苦い経験があるので、クラフトビールの世界が本当に素晴らしいものであることを丁寧に広げていきたい。いまクラフトビールがブームと言われていますが、日本ビール市場の1%にも満たない流通量なわけで、まだまだ全体で盛り上げていく必要がある。ビールの一つの選択肢として認知され、生活に豊かさを与える存在になるまで全力で取り組み続けます」。

普段のビールの楽しみ方から1歩踏み出せば、確かな品質とより幅広い美味しさが待っているクラフトビールの世界。今年の夏は、お気に入りのクラフトビールを見つけて、楽しんでみてはいかがだろうか。

ビールづくり

ビールづくり

ビールづくり

Writer : TAICHI UEDA / Photographer : SATOSHI TACHIBANA

伊勢角屋麦酒

所在地 伊勢角屋麦酒 麦酒蔵(びやぐら):三重県伊勢市神久6-428
伊勢角屋麦酒 内宮前店:伊勢市宇治今在家町東賀集落34
伊勢角屋麦酒 外宮前店:伊勢市本町13-6
URL https://www.biyagura.jp/ec/

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