THE ROOTS OF SHUN(July 2017)

生産者の結束が切り拓く農業の未来

― 埼玉県加須市

加須市

(取材月:June 2017)

埼玉県の北東部に位置する加須(かぞ)市は、利根川と荒川に挟まれた水利に富んだ地域で、古くから肥沃な土壌に恵まれ、米作が盛んにおこなわれてきた。また、一帯は見渡す限りの広い平野で、冬でも日照に恵まれ、災害も少なく、米以外にも野菜や果物など多種多様な農産物が作られている。

品目の垣根を超えた若手農家の集まり

近年、農家の高齢化や担い手不足は大きな問題になっているが、ここ加須市も例外ではない。そうしたなか、加須市内で農業に従事する若手が集まり、立ち上げたのが「ヤング農マンKAZO」だ。地域の農家の後継者はもちろん、農業法人などに勤務する者もメンバーに加わり、地域の農業を盛り上げようと精力的に活動している。

「加須市に住んでいて、農業に携わっていれば誰でも参加できます」と話すのは、発起人の早川良史さんだ。

早川さんは、主に米を生産・販売する農家。参加希望者は「加須の農業を盛り上げたい」という意欲ある農業従事者であれば構わず、手がける品目にも制限は設けていない。その結果、米だけでなく、きゅうりやトマト、白菜、ブドウ、畜産や花に至るまで、さまざまな生産者が集まった。

  • 田んぼ
  • 早川良史さん

密な連携が、不可能を可能にする

「ヤング農マンKAZO」のメンバーは月に1度は必ず集まり、地域の農業について意見を出し合っている。また年に1〜2度は県外の農家を訪ねて研修をおこなったり、東京都で開催されている農業求人フェアに出向いたりなど、その活動は市内にとどまらない。さらに、メンバー同士の情報交換も活発で、互いに刺激し合いながら切磋琢磨する関係が築かれている。

「ほかの品目の話を聞くと、自分でやっている方法とまったく違うのですごく面白いんです。メンバーはみんな、より美味しく、よりたくさん作るために工夫しているので、刺激にもなります」と早川さん。

実は「ヤング農マンKAZO」を結成するまでは、旧加須市には青年会議所などの横のつながりが無かった。農家同士の交流においても、“きゅうり農家”や“トマト農家”など同一品目の生産者が集まることはあっても、品目の垣根を超えて交流することはほとんどなく孤独を感じていたという。

そうした状況のなか、早川さんたちは市役所に頼んで名簿を作ってもらい、自分達で横のつながりを築いたことで可能性は確実に広がった。地域イベントに積極的に参加し、加須で獲れた農産物を使ってPRをおこなったり、6次化を進めている畜産農家が経営するレストランでメンバーが育てた野菜を使ってもらったり、お互いの人脈と経験を活かした連携が生まれているのだ。いまでは、畜産農家で生まれた堆肥を米農家が土の改良に利用するなど、循環型農業を見据えた取り組みも始まっている。

ヤング農マン

トラクター

情報を共有して経験値を底上げ

「今後はもっと若い年代の方にも参加してほしい」と早川さんは話す。若い力は体力勝負の農業には必要不可欠なのだ。さらに期待するのは体力だけではない。

「若い人は頭が柔軟で、新しいアイデアを取り入れるのも早い。しかもその情報を隠さず共有してくれるんです。私たちより上の世代は、ノウハウはなかなか人に教えないのが普通でした。しかしこれからはいいものはなんでも積極的に取り入れる姿勢が必要だと思います」。

そうやってお互いの情報を交換するようになって、農産物の改良も飛躍的に進んだという。

「農業は知識も大事ですが、経験がものをいう世界でもあります。たとえ良さそうな方法を見つけても、それを試せるチャンスは1年に1回しかありません。だからこそ、より多くの人の経験を共有することが重要です」。

  • 若者
  • ビニールハウス

“旬”を迎えた加須のきゅうり

「ヤング農マンKAZO」の現会長で、“旬”を迎えたきゅうり農家の田島祥之さんの畑を訪ねた。

加須のきゅうりは、昼夜の温度差が大きく、水に恵まれた豊かな土壌で育ったため、歯ごたえがよく香りが抜群で、市場でも高評価を受けているという。きゅうり農家同士の連携も活発におこなっており、年に8回それぞれの畑を見てまわりお互いの手法を研究する機会を設けているほか、資材や使用する薬品など、情報交換も密におこなっている。

「同じきゅうりでも、人によって作り方は全然違います。品種によっても細かく作り方がわかれているので、ほかの人の作り方はとても勉強になるんです」。

さらに、加須の何よりの強みは、都市に近く、新鮮なうちに首都圏に届けられることだという。早朝に収穫したきゅうりは、半日後にはお店に並ぶほどのスピード感だ。

「新鮮さは美味しさの重要なポイント。野菜を選ぶときはぜひ産地をみてほしいですね。関東圏に住んでいる方には、こんなに近くに生産地があることを知ってもらえたら」と田島さんは話す。

「いつの頃からか、“農家は儲からない”というイメージがついてしまいましたが、ヤング農マンのメンバーは、農業を楽しんでいるし、誇りを持ってやっています。私たちの取り組みを通じて、農業を職業として当たり前と思ってもらえるような時代がくるといいですね」。

「ヤング農マンKAZO」が育てている農産物は、東京都内のスーパーでも販売されている。産地をチェックして、新鮮な味を楽しんでみてはいかがだろうか。

田島祥之

きゅうり

Writer : YUKI MOTOMURA / Photographer : SATOSHI TACHIBANA

加須市の「キュウリ」

情報提供:「ヤング農マン KAZO」現会長きゅうり農家 田島祥之さん

きゅうり

“旬”の時期
3月〜6月 (加須産の場合)

目利きポイント
・花をつけたままのもの
一般的には花がついたままだと鮮度がすぐに落ちてしまうので、花がついているということは採れたてな証
・表面のいぼがなるべくトゲトゲしているもの
・光沢があるもの
・生産地が近いこと