THE ROOTS OF SHUN(March 2017)

小さな漁師町で300年以上続く「掛魚まつり」

― 秋田県にかほ市

掛魚(かけよ)まつり

(取材月:February 2017)

日本各地に根付いている“祭り”の文化。祭りは八百万(やおよろず)の神に祈りを捧げる儀式だが、その表現方法は祭りによって実に様々だ。

秋田県南西部の町・にかほ市の金浦(このうら)地域では、毎年2月4日の立春の日に、奇祭と呼ばれる「掛魚(かけよ)まつり」なるものがおこなわれている。海上安全と大漁を願い、地元で獲れる巨大な「寒鱈」を担いで人々が町を練り歩くという、一風変わったお祭りだ。

真冬の日本海で鱈漁に挑む漁師たちの祭り

秋田県の日本海側をなぞっていくとその一番南に位置しているにかほ市。西側に日本海、南に鳥海山を仰ぐ自然豊かなまちだ。海のすぐそばにある金浦地区は、貞永元年(1232年)に港が開かれてから漁村の村として栄えてきた。そんな金浦の地で300年以上続く祭りがある。「掛魚(かけよ)まつり」だ。別名「鱈まつり」と呼ばれ、その由縁は、地元の名産物である“寒鱈”が祭りの主役であることにある。

鱈は冬の味覚を代表する魚で、毎年1月〜2月末に漁の最盛期を迎える。金浦漁港は鱈漁の本場であり、ここで水揚げされる寒鱈は「金浦鱈」と呼ばれる地元の名物だ。しかし、寒さの厳しい真冬の日本海での鱈漁は非常に過酷。金浦の郷土史を研究している佐藤忠悦さんによると、「その昔は大シケで不漁が続いたり、漁師たちが命を落とすこともあった。そこで漁師たちは、自分たちが獲った貴重な寒鱈を守護神である金浦山神社に奉納して感謝を捧げ、海上安全と大漁を祈願するようになった」のが、この掛魚まつりの始まりなのだそうだ。

漁の最盛期

重さ10kg以上の寒鱈を担いでまちを練り歩く

朝9時半に金浦漁港に到着すると、すでにたくさんの人が集まっていた。会場の中央にずらりと並んでいるのは、なんとも立派な寒鱈たち。人々は奉納者の名前を書いた札をつけられた寒鱈を眺めながら「今年はあそこのやつが一番大きいなぁ」などと談笑している。

祭りの開始とともに始まったのは、約400年前にこの地に伝わったといわれる伝統芸能「金浦神楽(きんぽかぐら)」。水色と白色の鮮やかな衣装を着た子どもたちを中心に、笛と太鼓で奉納の舞を披露する。バチをくるくると回しながら太鼓を叩く様はとても華やかで、大役を任された子どもたちの表情も誇らしげだ。

10時ちょうどになると、いよいよ寒鱈を担いでの練り歩きが始まった。金浦神楽の一団を先頭に、奉納者が2人1組になって竹にぶら下げた寒鱈を担いで列をなし、金浦漁港から奉納場所である金浦山神社までの約2kmをゆっくりと練り歩いていく。

町の中を鱈を担いだ人々の行列が通る様子は我々にとっては新鮮だが、沿道で眺めるまちの人にとっては毎年恒例の景色。みんな和やかな表情で、行列を見守っていた。

目的地である金浦山神社では、あふれんばかりの人が一行を待っていた。本殿へ続く長い石段の両サイドに見物客が並び、その真ん中を寒鱈を担いだ奉納者が登っていく。今年奉納された寒鱈は全部で50匹ほどで、一番大きいもので重さ約15kgという大きさ。担いだ人は「ちょっぴり重かったです」と笑っていた。

すべての寒鱈が奉納されると、本殿の前で再び金浦神楽が始まり、神主が神に祈りを捧げる。賽銭をして静かに手を合わせている見物客は、みな真剣に海上安全と大漁を祈願しているようだった。

寒鱈

  • 金浦神楽(きんぽかぐら)
  • 練り歩き
  • 金浦山神社

地元のお母さんらが振る舞う具だくさんの鱈汁で温まる

神事が終わり、神社の向かいにある勢至(せいし)公園広場に向かう。ここはイベント会場になっていて、色とりどりの大漁旗が飾られた広場には、周辺地域の美味しいものが食べられるブースのほか金浦神楽を披露するステージもあり、多くの人で賑わっていた。

なかでも一番人気なのが、地元のお母さん衆が手作りする「鱈汁」だ。大ぶりの鱈の身がたっぷり入った鱈汁は、鱈の肝で味付けしてあり、冷えた身体に染み渡る美味さ。

イベントの最後には、奉納された鱈が当たるという大抽選会も開催。ご当地ヒーロー・超神ネイガーも登壇し、見事当たった人は大きな鱈を抱えながら、「今夜は鱈鍋だな!」と盛り上がっていた。「もともとは地元の小さな祭りだったのが、年々知名度が上がり来場者が増えている」と話す佐藤さん。

その土地の歴史や食文化といった地域の伝統を体験するには、小さなまちの祭りを訪れてみることをおすすめしたい。

  • 鱈汁
  • 大抽選会
  • にかほ市

Writer : ASAKO INOUE / Photographer : CHIE MARUYAMA