THE ROOTS OF SHUN (May / BACK NUMBER 2015)

香る「山椒」に込められた地域の想い

― 兵庫県養父市

(取材月:April 2015)

ピリリと刺激のある山椒は古くから料理や薬にも使われてきた日本原産の香辛料である。山椒は日本全国に自生し、2~3mほどの高さの木に小さく丸い果実がつく。枝には鋭い棘があるのが一般的だが、稀に突然変異として棘のないものが出てくることがある。その棘のない山椒として有名なのが、養父市八鹿町(やぶしようかちょう)朝倉地区原産の「朝倉山椒」だ。
「朝倉山椒」は一般的な山椒に比べてまろやかな辛みがあり、香り豊かな一品という評判もあって、国内の高級料理店などで好んで使われるほか、最近ではヨーロッパの三ツ星料理店でも使われているという。

中山間地で生まれる一品「朝倉山椒」

「朝倉山椒」が栽培される養父市は兵庫県北部の但馬地域に位置する人口わずか25,000人ほどの(2015年4月現在)中山間地である。

西に兵庫県最高峰の氷ノ山(ひょうのせん)を望み、町の8割以上が山と谷におおわれた自然豊かな風土を擁する地域である。2014年には農業分野での国家戦略特区の指定を受け、注目と期待を集めている。

「朝倉山椒」について、朝倉山椒組合の茨木信雄さんにお話を伺った。
「山椒には雄木と雌木があり、実をつけるのは雌木だけです。4月〜5月にかけて雄木が開花し、その花粉が雌花に受粉し、初夏(5月下旬)頃に実をつけます」。

山椒は葉、花、実など、ほとんどの部分を無駄にすることがなく利用されている。そのなかでも「花山椒」と呼ばれる雄花は開花時期が1年のうちで7〜10日間と“旬”の時期は短く、市場にはあまり出回らない高級食材とされている。

茨木さんに「朝倉山椒」の原木があるという場所に案内していただいた。小高い山の上にひっそりとたたずむ廃寺の奥には、雄木と雌木が生えていた。

雄木は樹齢40年とされており、自生とは思えないほど、太い幹に青々とした葉をたっぷりと携え、その先には花がつぼみをつけたばかりの状態でいる。

「花山椒は花が咲いてしまうと風味が落ちてしまうので、つぼみの状態を食べます」と茨木さん。
花のつぼみをとり、手の平で軽くたたくと、ハーブにも似た強い香りがふわりと辺りに広がる。地元の人たちは、この花山椒を肉や魚の付け合わせにしたり、しゃぶしゃぶの具材に入れてみたりと、口の中に広がる香りとピリリとした辛みを楽しんでいるという。

氷ノ山写真

茨木さん写真

  • 朝倉山椒写真
  • 山椒しゃぶしゃぶ写真

30年以上の歳月をかけた苗木作り

「朝倉山椒」の歴史は古く、今から400年以上前に徳川家康に薬として献上されたことが記録として残っている。「朝倉山椒」は、かつては大名の献上品として扱われ、庶民の口には入らない高級品とされていたという。

400年以上もの歴史がある「朝倉山椒」だが、この地域の特産物として知られるようになったのは、実はごく最近の話だと茨木さんは話す。

「市の取り組みで“歴史のある『朝倉山椒』を特産物として育てよう”ということになり、もともとこの地域で活動していた朝倉山椒組合に呼びかけたのが始まりです。しかし、『朝倉山椒』は育てるのが難しく、枯れやすいという弱点を持っており、大量栽培がなかなかできませんでした」。

朝倉山椒組合の組合長を務める才木明さんが、その苦労を語ってくれた。
「朝倉山椒組合を作ったのは1977年のことでした。当時は『朝倉山椒』の栽培に関する資料がまったくなく、地域のお年寄りに聞いて、どうやって種を蒔くのかなど、一から聞いて勉強しました」。
当時は才木さんら30代の若者が4〜5人集まり、荒れ放題の耕作放棄地を一年がかりで開墾するところから始めたという。

そして、根が浅く、枯れやすいという「朝倉山椒」の弱点を改善するため、才木さんたちは山に自生している山椒の木から根が強いものを探し出し、その種を蒔いていった。

「根が強い木の種はなかなか発芽せず苦労しました。しばらくして少し伸びたのですが、今度は実が少ししかつかなくて。辛抱強く育てるうちに、突然変異でたくさん実がついたものができるようになりました。そして、それを接ぎ木(2個以上の植物体を人為的に接ぎあわせ一つの個体を養成する繁殖法)してまた育てるといったことを、ひたすら繰り返しました。山椒はもともと4〜5年で枯れると言われていたので、試したことが本当に良いかどうかは5年経たないとわかりません。取り組みをはじめてから10年ほど経って、ようやく一房に50粒ほどの実をつけるようになりました」。

それから100粒前後の実をつけるまでには、さらに10年かかったという。ようやく安定した苗木を作ることができるようになったのは今から5〜6年ほど前だそうだ。そして、ちょうどその頃に茨木さんと出会い、「朝倉山椒」を市の特産物にするという話を聞くことになったという。

山椒写真

山椒栽培写真

才木さん写真

地域ぐるみの山椒栽培

そこから、「朝倉山椒」のブランド化を進める一方で、才木さんが育て上げた苗木を養父市に住む人たちに配り、栽培してもらう取り組みが始まった。
養父市は若者の地域離れと高齢化が深刻化している。そこで、定年退職した方の新たな仕事になるようにと、「朝倉山椒」の栽培を進めたのだった。

「才木さんの長年の研究のおかげで、地域の人にも手軽に山椒が育てられるようになり、この計画が実現しました。少しずつですが栽培してくださる家庭が増えています。この取り組みが広がれば、『朝倉山椒』を保存できるだけでなく、地域の人たちの収入になり、耕作放棄地を農地として再生させることもできます。安定して山椒を育てられる環境は整ったので、これからの課題は販路を広げることと、加工商品の開発です」と茨木さんは語る。

「朝倉山椒」だからこそ広がる可能性

養父市では地域一体での山椒を使った新しい加工品づくりが進んでいる。

養父市に本店を構えるパティスリーカフェ・カタシマでは、南フランスの伝統的な調味料、タプナードに山椒を入れた「朝倉山椒のタプナード」を販売している。この「朝倉山椒のタプナード」は肉や魚、豆腐とも良く合い、山椒の新たな魅力を教えてくれる一品だ。

「山椒のピリリとした辛さが好きな方もいれば、嫌いな方もいらっしゃいます。様々な食材と組み合わせることで、辛みを調節することができるので、これまで以上に幅広い層に山椒の魅力を伝えられるものになると思います」と語るのは、カタシマの総料理長の廣氏佳典さん。
「朝倉山椒」ならではのまろやかな辛みだからこそ、食材とのマリアージュを楽しめるというわけだ。

また、養父市畑地区の人たちが組合員として運営する畑特産物生産出荷組合では、赤味噌や白味噌と和えた「山椒味噌」や、バジルに替えて山椒を使った「山椒ジェノベーゼ」を開発。
これらの商品は道の駅などで販売していることもあって、観光客からの評判も良く、「朝倉山椒」の知名度を上げることに一役買っている。

養父市から発信される山椒の魅力は地域に根ざしたものから、世界に通用するものまで幅広い。世界中の舌をうならせる「朝倉山椒」の楽しみ方は、これからも尽きることがなさそうだ。

カタシマメニュー写真

  • 廣氏さん写真
  • 朝倉山椒商品写真

人口わずか25,000人ほどの中山間地における養父市の挑戦は、世界中の人を魅了する食材を創り出していくとともに、日本の農業の新たな未来を創り出そうとしている。

Writer : YUKI MOTOMURA / Photographer : KOJI TSUCHIYA

パティスリーカフェ・カタシマ

住所 兵庫県養父市上野1156-1
TEL 079-664-0351
営業時間 9:00-20:00
定休日 なし
URL http://www.katashima.co.jp/

兵庫県 観光情報

japan-guide.com http://www.japan-guide.com/list/e1230.html

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