THE ROOTS OF SHUN (November / BACK NUMBER 2014)

小さな町にあふれる大きな“りんご愛”

― 青森県北津軽郡板柳町

りんご果樹園写真

(取材月:November 2014)

青森県の津軽平野の中央に位置する板柳町は、年間約2万6千tものりんごを作る日本有数のりんごの産地。四季の変化に富んだ気候と豊かな土壌、高い技術を持った農家の手で板柳町のりんごは美味しく育つ。町を訪れた時期は、ちょうどりんごの収穫シーズン。雄大な岩木山が背に広がる果樹園の枝々には、真っ赤なりんごがたわわに実り、町の風景に彩りを添えていた。

りんご作りに恵まれた板柳町

"りんごといえば青森県"だが、その歴史は明治時代までさかのぼる。青森県にりんごの苗木が入ってきたのは明治8年(1875年)のこと。板柳町はその時、北津軽郡で唯一りんごの苗木の配布を受けた土地だ。以来この町では約140年間に渡って、多くの人々がりんごに関わりながら暮らしてきた。

朝7時半、板柳町で採れたりんごが取引される「津軽りんご市場」へ向かった。津軽りんご市場は全国唯一のりんご専門市場。そこで見た広い敷地内一面に積まれた松の木の箱の中には目一杯にりんごが詰まっていた。「今日は5万5千箱くらいかな?1箱あたり20kgのりんごが入っています。多い時には8万箱にもなりますよ」と教えてくれたのは、津軽りんご市場の副社長・石戸谷繁さん。じっくり見ていくと、青森の代表的な品種「ふじ」を中心に、緑色の「王林」や黄色がかった珍しい品種もある。一箱ずつに出荷主、品種、等級(サイズなど)、数量を書いた紙が付けてあり、しばらくするとセリが始まった。

「一箱単位で品種やサイズや状態が同じりんごを入れてあります。基本は色や形が綺麗かどうかを見ています。松の木はりんごの保存に適しているので、昔からりんごはこの木箱に入れて取引されているんですよ」。
石戸谷さんに、板柳町でりんご栽培が発展した理由を聞いてみた。「板柳町は土壌がいい。岩木川が氾濫して土石流が積み重なったことで土の栄養分が多くなり、りんごの実を大きく太らせてくれる。東には十川があり、2つの川に挟まれた平野であるということも好条件です。また昼と夜の寒暖の差が激しいので実が引き締まり、甘いりんごが育つんです」。
最近では海外でも日本産りんごの評価が高く、台湾や中国を中心にアジア各国への輸出も多くなっているという。

恵まれた風土はもちろんだが、板柳のりんごの美味しさは作り手の技術があってこそのもの。作り手の仕事ぶりを見に果樹園を訪れた。

津軽りんご市場写真

石戸谷さん写真

“葉とらず”でりんご本来の甘さを宿す

果樹園の奥へと進んでいくと、脚立の上で黙々と作業をする佐藤勉さんの姿があった。佐藤さんは板柳有機農法研究会の代表。佐藤さんは挨拶代わりに近くのりんごをもぎ取ると、脚立の端にぶつけて手で割り「食べてみな」と渡してくれた。その豪快さに驚きつつも一口かじると、溢れ出る果汁と濃い甘味が詰まったりんごの味にまた驚いた。「美味しいりんごはナイフを当てるだけでも果汁が出てくるよ」という。

佐藤さんは減農薬の厳しい基準が定められた特別栽培に取り組むかたわら「葉とらず農法」という栽培方法も実践している。日光に当たることでりんごは綺麗な赤色になる。そのため、通常は収穫前に「葉つみ」を行い日光を遮る葉を取り除くのだが、葉とらず農法ではこれを行わない。葉を残して光合成をさせることでりんごにより多くの養分が行き届き、味が濃厚になるという。葉をとらずに味を上げ綺麗な赤色に仕上げるために佐藤さんは首から下げた“輪ゴム”を使う。
「こうしてりんごに被っている葉っぱを束ねて輪ゴムで止める。そうするとりんごに日が当たるでしょう。1日にできるのは木10本くらいかなあ」。
これをりんご一つひとつにやっていくという気が遠くなるような作業。まるで一人の子供を育てるかのように愛情と手間をかけて作るからこそ甘味と酸味のバランスが絶妙にとれた真っ赤なりんごが誕生するのだ。この「葉とらず農法」で育てられたりんごは贈答用を中心とした「葉とらずりんご『葉玉』」として流通しているのだという。

葉玉写真

葉玉写真

15歳から50年以上りんごを作り続けてきた佐藤さんは「ここ10数年でやっと理想のりんご作りが出来るようになってきた」といい、まだまだ現役続行中。
「自分のやりたい放題にやってるだけだから。どうせ農家をやるならとことんやらなくちゃね。夢は大きく!青森のりんごも世界に負けないってな」。
りんご農家に休みはない。10月末〜11月末の収穫が終わった後は、次の年のために苗木の植え付けや堆肥作り、枝の剪定などを行う。5月頃に白い花が咲いたら果実に成長するまで手が離せない。板柳町の作り手の技術は日々の農作業の手間すらも楽しむ深い情熱から生み出されていると感じた。

佐藤さん写真

りんごの魅力をまるごと味わう

板柳町では日本一の“りんごの里”作りを目指し、自治体の取り組みも盛んだ。その取り組みについて板柳町長の舘岡一郎さん(所属・役職は取材時)が語ってくれた。取り組みの一つに「板柳町ふるさとセンター」がある。ここは一言でいうならば“りんごのテーマパーク”。りんごそのものが観光資源なのだ。りんご狩りを楽しむ果樹園、宿泊コテージ、レストラン、産直食材のショップに温泉まで観光に訪れた人々が楽しめる施設が集合している。ここでは「りんご草木染め」や、りんごの樹皮でバッグなどを編む「林寿」という民芸品づくりなど、りんごを余すところなく使った体験もでき、これまで知らなかったりんごの魅力を発見できる。

板柳町ふるさとセンター写真

また、舘岡一郎さんは、りんごで板柳町の産業振興を図る「りんごワーク研究所」の理事長も兼任されている。(所属・役職は取材時)
りんごワーク研究所が生み出したオリジナルブランド「Ringo Work」の代表商品「完熟アップルジュース」は、そのまま食べてもおいしい完熟りんごを贅沢に使ったジュース。「りんご×りんご」だけで開発した独自品種ブレンドパターンにより、唯一無二のテイストが4種類ある。1本1000円という価格にも関わらず、その品質の高さで全国的にも人気を集めている。「このジュースが完成したのは昭和63年(1988年)のこと。当時りんごジュースといえば、傷がついてそのままでは出荷できないりんごを使うのが常識でしたが、私たちは完熟りんご100%のジュースを作りたくて何度も試作・試飲を繰り返して、ようやく満足のいくジュースを完成させました」。
フロスト加工されたワインボトルの瓶が上品な「完熟アップルジュース」は、蜜が詰まった甘いりんごの味がそのまま口の中に広がる一品だ。

完熟アップルジュース写真

食べるだけではなく、木までまるごと使えるから「板柳町のりんごは働き者」と、ブランド名の「Ringo Work」に掛けて笑いながら語る板柳町の舘岡町長。もう一つユニークな取り組みは、町が独自に制定している“りんごまるかじり条例”だ。
「まるかじりできるくらいおいしくて安全なりんごを生産しようと、栽培方法のガイドラインや生産者情報(りんご市場、JA、町が一体となって取り組むトレーサビリティシステムを導入)の公開を約束した条例です。若い生産者のために生産方法の講習会なども開催している甲斐もあり、板柳町ではりんご農家の息子が後を継いでくれる率が高いんですよ。りんごそのものはもちろんですが、自然や文化、生産者など周囲の環境も守ることで日本一の“りんごの里”を目指しています」。
生産・流通・加工、そして観光資源にまで、りんごを中心に考える板柳町の取り組みを聞きに、今では海外からの視察も来るのだという。
多くの人がりんごに関わって暮らす板柳町には、人々の想いが作り出す“りんご愛”で町全体が満ち溢れていた。

舘岡町長写真

Writer : ASAKO INOUE / Photographer : CHIZU TAKAKURA

一般財団法人板柳町産業振興公社
りんごワーク研究所

本社所在地 青森県北津軽郡板柳町大字福野田字本泉34-6
TEL 0172-72-1500
URL http://www.town.itayanagi.aomori.jp/town/furusato/ringowork.html

板柳町ふるさとセンター

住所 青森県北津軽郡板柳町大字福野田字本泉34-6
TEL 0172-72-1500
URL http://www.town.itayanagi.aomori.jp/town/furusato/

青森県 観光情報

japan-guide.com http://www.japan-guide.com/e/e3750.html

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