THE POWER OF SHUN(November 2016)

SHUN STYLE

北海道から沖縄まで。日本の冬を温める“おでん”

イメージ写真

出汁にさまざまな具材を入れて煮込む日本伝統の料理「おでん」。

寒い冬には格別に美味しい定番料理として全国で親しまれているが、その味わいや具材、食べ方などは地域によって少しずつ異なるという、地域色の濃い郷土料理でもあるのだ。

「田楽」から始まり、変化していったおでん

「おでん」のルーツとなったのは、竹串に豆腐を刺して焼いた京都生まれの「豆腐田楽」という料理だったといわれている。江戸時代に入ると、焼いて食べていた「豆腐田楽」を出汁で温めて食べるという現在のおでんの原型になるようなスタイルが登場。

具材(おでん種)も豆腐だけでなく、こんにゃくや里芋などとバラエティに富み、ファーストフードのような感覚で人々の人気を集めていたという。その後、汁気たっぷりの煮物風の「おでん」が登場し、関西に伝わって「関東煮(かんとだき)」と呼ばれるようになった。

日本全国おでん巡り。風土を取り入れたローカルおでん

全国に広まったおでんは、地域の風土や産物によって様々な味わいに変化。全国のおでんを食べ歩いている“おでん研究家”の新井由己さんに、各地のおでんの特徴を解説いただいた。

ツブやホタテ

・北海道

北海道のおでんには、フキやわらびなどの山菜から、ツブやホタテといった貝類が入ります。札幌や釧路周辺では生の魚介類も加わり、ホッケのつみれやタラの白子を自家製で出す店も。また花見や夏祭りなど温かい時期には生姜を効かせた味噌ダレで食べる「味噌おでん」が登場します。

田楽

・東北

東北に汁気たっぷりのおでんが伝わったのは戦後といわれており、岩手や福島・山形の山間地では豆腐やコンニャクの田楽が主流です。また青森市を中心とした地域では、汁気のあるおでんにしょうが味噌だれをかけて食べるのが一般的で、北海道の味噌おでんの影響を受けていると見られます。

お多幸

・関東

大正時代創業で、鰹出汁・醤油・砂糖を使った濃い味わいのおでん出汁が特長の「お多幸」や、昭和時代創業で薄味ブームをつくった「一平」など、それぞれの時代に人気を博したおでんがいまでも味わえるのは東京ならではです。「ちくわぶ」や「はんぺん」は江戸っ子に人気のおでん種。また、「すじ」は関西では牛すじのことですが、関東おでんのそれは、はんぺんを作る課程で出たサメの軟骨などを混ぜた練り物のことを指します。

静岡おでん

・中部

中部地方では、“だし粉”をふりかけて食べる「静岡おでん」が有名。牛のすじ肉や切り出し肉を使った出汁に、イワシや鯖のすり身を使った半月状の黒はんぺん、とろりと煮込まれたブタモツなどのおでん種も特徴的です。また味噌文化が強い愛知県では、おでんにも八丁味噌(豆味噌)のタレをたっぷり付けて食べます。名古屋市の中心部では、豚モツを味噌で煮込んだ「どて」と一体化したような味噌煮込みおでんも存在します。

お多幸

・関西

鰹出汁の煮込みおでんが関東から伝わったことから、大阪ではおでんのことを「関東煮(かんとだき)」と呼んでいました。関西で新たに昆布出汁を加えて深みを増した関東煮は、関東大震災後に東京へ再び伝わり全国区に。関西で欠かせないおでん種は「牛すじ」。現在はかしわ(鶏肉)や手羽先などを加えてコクを出すところもあります。

つけダレ

・中国・四国

四国ではさまざまなつけダレが進化していて、香川や徳島では「からし味噌」、愛媛では「みがらし味噌」という麦味噌ベースのからし味噌が定番に。また山口・萩周辺はかまぼこ作りが盛んだということで、中国・四国地方ではおでん種に「かまぼこ」が加わります。

鶏ガラベース

・九州・沖縄

九州で好まれているのは鶏ガラベースのおでんで、からしの代わりに柚子胡椒を付ける人も多いです。鹿児島市の居酒屋では、豚骨・鶏ガラベースの出汁に麦味噌中心の合わせ味噌・ザラメ・焼酎などを加えて煮込んだ“豚骨風おでん”を見かけます。沖縄はおでん屋が多く、スーパーの総菜売り場脇で売っていることも。鰹出汁に豚足が入ったコクのある味わいで、ソーセージや青菜が入るのがユニークです。

(協力:おでん研究家・新井由己さん)

おでん作りは仕込みが命。関東代表「お多幸」のおでん

地域ごと、家庭ごと、店ごとにおでんの味は変わるが、それぞれに変わらぬ味を守り続けているのもまた、おでんの面白いところ。

伝統的な関東おでんを知ろうと向かったのは、大正12(1924)年創業の「日本橋 お多幸 本店」。店に入るやいなや、カウンター越しに見える四角いおでん鍋から立ち上る出汁の香りに食欲を刺激される。

鰹・昆布・醤油・砂糖で仕上げた漆黒のおでん出汁は、創業時から継ぎ足しながら守り続けているお多幸の宝。意外にも使っているのは薄口醤油だそうで、長年継ぎ足しを繰り返すうちにおでん種の味が溶け出し、色合いが黒く深まっていったのだそう。

約25種のおでん種はどれも大きめで、関東おでん特有のものや、お多幸ならではのものもある。

「練り物系は日本橋の神茂(かんも)、豆腐やがんも、厚揚げは人形町の双葉という店から代々仕入れています。『ちくわぶ』や『さかなすじ』、かまぼこに揚げを巻いた『しのだ』などは、関東ならではのおでん種です。この巾着型の油揚げは『ふくろ』といって、中にタマネギ・椎茸・人参・銀杏・しらたきが入ったうちの自家製種です」と話すのは、店長の坂野善弘さんだ。

お多幸のおでん鍋を任されて20年という坂野さんいわく「おでんは仕込みが全て」。早い時は朝7時から厨房に入るというから驚いてしまう。

「丁度良い具合に味が染みたおでんを出せるように、仕込みで味を入れておきます。おでん種の回転が早い冬場はしっかりと、逆に回転の遅い夏は浅めに味を入れておく。もちろん種によっても煮る時間も異なります。同じ出汁を使っていても、鍋を使う人によって微妙に味は変わる。新人の頃はよく常連さんに指摘されたりして(笑)」。

ちなみに常連さんが最初に注文するのは、コンニャクや白滝、豆腐などだそう。

種自体の味が淡白なので出汁の味が一番わかりやすいからだ。常連さんにならってまず白滝をかじってみた。ガツンとした鰹出汁の旨味と甘辛い醤油の風味が後引く美味しさ。これはお酒が進んでしまう。

目の前の一皿が出てくるまでの仕込みの手間暇を思うと、より一層美味しく感じられ、身も心もほっこり温まるおでん。今回ご紹介した関東おでんの代表「お多幸」を始め、日本全国のおでんを味わう旅に出てみるのも、面白いかもしれない。

漆黒のおでん出汁

坂野善弘さん

おでん

Writer : ASAKO INOUE / Photographer : YUTA SUZUKI
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。

プロフィール

新井 由己(TOKOTON Studio)

神奈川県生まれ。フォトグラファー&ライター。同じ物を広範囲に食べ歩き、その違いから地域の文化を考察する比較食文化研究家。「とことんおでん紀行」をはじめ、おでんに関する著書多数。
http://www.yu-min.jp/

日本橋 お多幸 本店

住所 東京都中央区日本橋2-2-3 お多幸ビル
TEL 03-3243-8282
営業時間 平日11:30-14:00(L.O.13:30)
17:00-23:00(L.O.22:15)
土・祝日16:00-22:30(L.O.21:45)
定休日 日曜日
  • 日本橋 お多幸 本店