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SHUN CURATORS(July 2015)

産地にこそ日本の食文化の根源がある

― 「東北食べる通信」編集長 高橋博之さん

高橋さん写真

東北で作られている食材が情報誌と一緒に届く「東北食べる通信」をご存知だろうか。

2013年7月の創刊以来、宮城県石巻市の“牡蠣”や青森県の地鶏“青森シャモロック”、福島県いわき市の自然農法で育てられた“寒中野菜”など、毎回魅力的な食材と、その食材にまつわる情報が届く楽しさが人気を集め、いまや新規購読希望者は後を絶たない状態になっているという。

いまでは東北だけではなく、さまざまな地域で「食べる通信」が続々と創刊され、その動きは全国に拡大している。
この画期的な情報誌の発起人であり、編集長を務めるのがNPO東北開墾の高橋博之さんだ。岩手県花巻市で生まれ、かつては岩手県議会議員を務めたという異色の経歴を持つ高橋さんに、日本の食文化の魅力についてお話を伺った。

生産者と消費者をつなげたい

Q「東北食べる通信」はどのような思いではじめたのですか?

食に対して「国産のものが良い」と言う人は多いですよね。でも、日本の第一次産業の生産者が減っているという問題に目を向けている人は自分を含めて少ないのではと思いました。

例えば、日本に漁師さんがいなくなったら、自分たちは寿司を食べられなくなりますよね。そう考えると、生産の場で起きている問題に関してはすべての国民が当事者なんです。その問題に対して何かできることがあるのではと思ったのが「東北食べる通信」を創刊することになったきっかけです。

「東北食べる通信」は月に1回発行しています。毎日3食、1ヶ月で90食の食事をとるとしたら、その全てをガラッと変えるのは難しいけど、この「東北食べる通信」をきっかけとして90分の1ぐらいは、生産者のことを考えながら食事をすることができるんじゃないかと。

以前取材した宮城県東松島市の海苔漁師さんは、自分の子どもを育てるかのように、慈しみながら海苔を育てています。「海苔の顔が見える」なんて言うんですよ。そういったことを知ると、ぐっと距離が近づきますよね。漁師さんの顔を思い浮かべながら食べて、台風が来たら漁師さんや産地は大丈夫かな、と心配になる。

「食べる」ことほど人とつながれるものはありません。その一つの形態が生産者と読者をつなげる「食べる通信」なんです。

東北食べる通信写真 宮城県東松島市海苔漁師さん写真

自然を尊び、食べ物に感謝する日本独自の文化

Q読者が生産者を訪ねて、農業や漁業を体験するイベントも実施されているんですね

情報誌だけでなく、Facebookでの発信や生産者を呼んだ交流イベントなども開催しています。生産者のことや産地のことを知ってくると、実際に現場に行きたくなります。

生産者の方も、自分たちや自分たちが作っているものの価値を理解してくれている人だから、あたたかく受け入れてくれますよ。一緒に漁に行ったり、土をいじったり、お酒を飲んだりして、そこまでいったらもう親戚みたいな関係になってしまいますね(笑)。

交流イベント写真

Qそうした体験があるから、生き物や作物、そして生産者を尊ぶことができるのですね。

日本の食文化について話す機会があるときに、よく「日本には八百万の神がいて、生きとし生けるものすべてに神が宿る」という日本人独特の宗教観についてお話しします。世界中にファンのいるアニメのジブリ作品でもそうした世界観が表現され、それは日本人だけでなく世界中の人を魅了していますよね。

それを地でいっているのが生産者たちなんです。常に荒ぶる自然を相手に、立ち向かったり押さえこんだりせず、いかにその環境下で食べ物を生み出すかを考えている。そして最後は、土地や海、天候、生き物、作物に祈りを捧げる。
そうして各地域では古くから自然とともに生きる知恵や技術、そして文化が積み重ねられています。僕の地元の岩手県だけでも、郷土芸能が1000ぐらい生まれていますが、そのほとんどが生産現場から生まれているものです。

高橋さん写真

Q確かに、各地のお祭りは五穀豊穣を祈るものも多く、それは日本の食文化の一つと言えますね

自然と人間が厳しく対峙するところから、食べ物が産まれ、そこには独自の食文化があります。自然が厳しいところほど、人間は知恵を絞ってその地域ごとの食文化を形成してきました。日本は四季がはっきりしていて自然が多様だからこそ、バラエティに富んだ食文化があるのだと思います。

そうした日本の素晴らしい食文化を残していくためにも、食べ物や生産者を尊ぶ「いただきます」という気持ちを大事にしていきたいですね。

地方にはまだまだ知られていない日本の魅力が秘められている

Q各地の食の現場を取材する中で、“旬”という考え方をどう捉えていますか?

“旬”を味わうというのは、自然に人が合わせるということです。最近では一年中同じ食べものが並んでいて、自然を人に合わせる状態になっています。

本来ならば“旬”を味わうときには、人間が自然に任せて、その時とれたものを、できればその場で食べるのが一番いいですよね。
都会に住む人が地方の生産者の方とつながって、産地を訪れ、“旬”を味わってみてほしいです。

語る高橋博之さん写真

Q各地には、まだ観光ガイドには載っていない日本の魅力がありそうですね。

まだまだありますよ!(笑)。

日本の文化は精神的な世界で満ちています。外国人の方が日本の農家や漁師の方のところに行ったら驚くと思いますよ。日本人の自然と向き合う姿勢から教えてもらえることは沢山あります。
ただ、日本でも時代とともにそれは薄れてかけてきていますが、生産現場にはまだ残っています。僕はそのことを伝えていきたいんです。

Writer : YUKI MOTOMURA / Photographer : SATOSHI TACHIBANA
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。

プロフィール

高橋 博之(「東北食べる通信」編集長・NPO東北開墾代表理事)

1974年岩手県花巻市生まれ。2006年岩手県議会議員補欠選挙に無所属で立候補、初当選。翌年の選挙では2期連続のトップ当選。政党や企業、団体の支援を一切受けず、お金をかけない草の根ボランティア選挙で鉄板組織の壁に風穴をあけた。 2011年に岩手県知事選に出馬、次点で落選。沿岸部の被災地270kmを徒歩で遊説する前代未聞の選挙戦を展開した。
2013年、後援会を解散し事業家へ転身。NPO法人東北開墾を立ち上げる。

東北食べる通信

URL http://taberu.me/
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