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SHUN CURATORS(March 2017)

食卓から伝える「健康」のかたち

―予防医療コンサルタント / 一般社団法人Luvtelli(ラブテリ)代表理事 細川モモさん

細川モモさん

健康ケアの専門家として、栄養コンサルティングやレシピ開発などで「食」に関わる細川モモさん。日本の食文化の優れた部分を取り入れ、現代人の身体づくりに活用してきた。妊活・母子健康など女性と赤ちゃんの健康を高める専門家として知られる彼女だが、近年、自身も結婚・出産を経験。母となったいま、改めて食と健康に向き合う細川さんに、食の大切さや魅力についての話を伺った。

「マイナス1歳」からの健康管理

Q予防医療コンサルタントとは、どのような仕事ですか?

「予防医療」とは、病気になってから治すのではなく、病気になる前から予防をすることです。ひとくちに予防医療といってもいろいろな種類があって、私は特に母子健康を専門にしています。

2009年に予防医療を日本に普及させるための専門家プロジェクトチーム「Luvtelli(ラブテリ)トーキョー&ニューヨーク」を立ち上げて、妊活中・妊娠中・産後のお母さんの健康や赤ちゃんの健康を高める活動をしています。

日本は低体重で生まれてくる赤ちゃんが先進国の平均に比べて圧倒的に多いのですが、現在の研究では、高血圧や高コレステロールなど、生活習慣病と呼ばれる病気の種は、胎児環境にプログラミングされるといわれています。つまり、病気を防ぐには妊娠期(胎児の時)からの健康管理が大切ということです。そのために私は、赤ちゃんがお腹にいるときにお母さんはどのような行動を取ればいいのかを指導したり、研究や啓蒙活動をしたりと、あらゆる活動をしています。

10代の頃、マクロビや玄米を食に取り入れるほど健康への意識が高かった両親が癌にかかったことがきっかけで、病気を予防する仕事を目指しました。先進的な取り組みがおこなわれているアメリカに渡り、公衆衛生(パブリックヘルス)、遺伝栄養学(ニュートリゲノミクス)と出会い、コレだ!という確信を得ました。高齢者も増え、将来的に保険制度が大きく変わる可能性もあるいま、日本でも「自分の健康は自分で守る」というマインドが必要な時代になってきたなと感じます。

細川モモさん

Q海外で勉強したことによって、何か発見はありましたか?

ニューヨーク市保健精神衛生局(NYC DOHMH:The NewYork City Department of Health and Mental Hygiene)などの情報発信のセンスの良さには衝撃を受けました。アメリカではメディア向けの論文発表は「New York Times」のライターが編集するなど、とにかく洗練されていて、面白く書かれている。教育格差がそのまま健康格差につながりやすいので、字が読めない人でもわかるようにビジュアル重視、オールカラーの情報が用意されているのを見て驚きました。

でも逆に日本の良さ、特に日本食の素晴らしさを見直すきっかけにもなりましたね。たとえば「肥満」一つ取っても、日本にいれば自然と予防できている部分も多いんです。好きなものを好きなだけ盛って食べる大皿スタイルに対し、日本は幕の内弁当のように一人ひとりのサイズが決まっているし、バランスよく食事を摂れるようになっていますね。それと、人が美味しいと感じるのは主に脂質や糖質ですが、日本人は「旨み」に対する味覚が形成されていることも知られています。食べ物、特に日本食によって人の健康を増進させることに興味が湧いたのはこの時かな。脂や糖を摂らずとも、出汁などの旨みで心を満たすことができる和食は、健康に有効なんだと。

幕の内弁当

その土地の“旬”が身体を守る

Q母子健康を薦めてきた細川さんですが、ご自身がお母さんとなり、家族ができたことによって、食に対する考え方も変わりましたか?

家庭の食卓で、ここまで季節を大切にした色鮮やかなメニューが並ぶのは日本の特長だと思うんです。だからお正月のおせちや冬至のかぼちゃ、ゆず、土用の丑の日など、季節行事は意識して取り入れるようになりました。食材の多彩さや、それぞれの地域で季節の移り変わりがもたらす“旬”の素晴らしさは、私がこの子に伝えなくてはと思っています。

それに“旬”の食べ物って、その季節の健康トラブルを防いでくれる効果があるんですよ。汗でたくさんの栄養が失われやすい夏は、夏野菜を食べて水分やミネラルを補ったり。他にも昆布やゴマは、「日本のスーパーフード」と言えるほど栄養価にすぐれています。「野菜」というとレタス・キュウリ・トマトのサラダを思い浮かべる人も多いですが、日本にはホウレンソウのおひたしや浅漬けなど、「副菜」によって地域性・季節性のある野菜の楽しみ方ができますよね。家庭での食経験は、子どもの食育そのものなので、やっぱり大切にしたいなと考えるようになりました。

細川モモさん

家族の健康を高める、食の楽しみ方を伝えたい

Qこれからの日本食をどのように守り、変化させ、繋いでいきたいと思いますか?

いまは女性もバリバリ働く時代ですけれど、私どものリサーチにおいて、自分の家でごはんを作って食べる人は、そうでない人に比べて、健康状態が良好であり、仕事の自己評価が高く、将来への不安が少ないという結果が出たんです。

アメリカはデリバリー文化が浸透していますが、日本では最近、下処理済みの野菜を宅配するサービスもあり、完全に出来合いのデリバリーでなく、せめて火を通して味つけをしたいと思う願望は日本特有のものなのかもしれないですね。

ごはんを作ることは、優れた栄養の摂り方や食文化を伝承するだけでなく、心の満足と直結するということ。日本では仕事を持つ人が増えて、料理時間が年々減ってきていますが、ハッピーな毎日を繋げるために、食をうまく取り入れてほしいなと思います。

細川モモさん

Q著書「『食事』を知っているだけで人生を大きく守れる」を通じて、伝えたいことはどんなことでしょう?

日本にも健康への意識の高い人がどんどん増えています。和食は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、小麦と比べてお米が主食となる和食は、ヘルシーなメニュー構成がしやすく栄養管理に適しているということを伝えたいです。

また、気を付けてほしいのが、情報に根拠があるかどうか。日々流行が変わる健康情報も、きちんとした根拠に基づいた情報なのか、一過性の人為的な「ブーム」なのか、これからは利用者が見究めていかなくてはいけません。

まずは「知る」こと、そして風土が育んだ和食を楽しみながら、家族みんなで健康になっていけたらいいですね。

著書「『食事』

Writer : MINA HIRANO / Photographer : CHIE MARUYAMA
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。

プロフィール

細川モモさん
予防医療コンサルタント / 一般社団法人Luvtelli(ラブテリ)代表理事

10代で両親が末期がん患者になったことから予防医療に関心をもち、医療・健康・食の専門家によるプロフェッショナルチーム「Luvtelli(ラブテリ) Tokyo&NewYork」を日本とニューヨークで発足。大学、病院、企業と「卵巣年齢共同研究プロジェクト」「高崎妊婦栄養研究」などの共同研究や論文発表をするほか、「Luvtelli 基礎栄養学本」「Baby Book ⅠⅡ」、「タニタとつくる美人の習慣」(講談社)、「細川モモの美人食堂 – 食べて、きれいになる」(主婦の友社)、「「食事」を知っているだけで人生を大きく守れる」(ダイヤモンド社)など著書も多数執筆。「妊娠中の食事」(主婦の友社)監修、水産省「地域食文化活性マニュアル検討委員会」委員。

細川モモさん