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SHUN CURATORS(April 2014)

日本の旬がうらやましい!

― イギリス在住の料理研究家 エリオットゆかりさん

海外を旅したり、海外で暮らしたりすることで、日本の食文化の魅力や奥深さを、改めて思い知らされた人も多いのではないか。
イギリス在住の料理研究家であるエリオットゆかりさんも、その1人。
エリオットさんに、現地で毎日料理と向き合う中で痛感する、日本とイギリスの食文化の違い、そして再発見した日本の食文化の素晴らしさを、「旬」に対する思いも含めて語ってもらった。

なお、エリオットさんは、現在、イギリス大使館が展開する、世界に向けてイギリスの食文化の魅力を発信するという「Food is GREAT」キャンペーンのアンバサダーとして、レシピの提供やイベント開催も手掛けている。

  • エリオットゆかりさん写真1

 忘れかけた「旬」の感覚

Qイギリスで暮らし初めた当初、日本とは違う食生活に戸惑うことも多かったのではないですか?

イギリス人の主人と結婚して、イギリスに住み始めたのは14年前。最初は本当に不便でしたね。今でこそ、日本の食材が手に入りやすくなりましたが14年前は少なかったです。

Q食文化の違いで、今でも忘れられないエピソードはありますか?

私、牛肉のアスパラ巻きが好きで、ケータリングメニューでもよく作るのですが、日本では当たり前に手に入った、薄切り肉が欲しくてお肉屋さんに行ったことがあったんです。お肉屋さんだから、できないわけないと思い、なけなしの英語で、「この固まり肉を紙のように薄くして下さい」って、ジェスチャー付きで説明しました。
そしたら、店長さん「OK任せとけ」って、包丁持ち出して切り出したら、ものすごい厚切りなんです。私はそうじゃなくて、もっと薄くって伝えても、「うるさい、だまっとけ、任せとけ」という感じなんです。包丁で切ったって、5ミリ以上はあるんです。「そうじゃない、本当に紙みたいに!」って、機械を使ってくれと頼んだら、今度は肉たたきを持ち出して肉を叩き始めるわけですよ。ガンガンガン、ガンガンガンって。それを散々叩いて、繊維もめちゃくちゃになった肉を持ち上げて、「紙みたいに薄いでしょ!」と、得意げな顔をされて。それは、本当に悲しかったです。あっ、イギリスでは薄切り肉という存在がないのかなって、そこで知る感じでした。

Qちなみに、イギリスの食生活に、日本の「旬」にあたる考え方はあるのですか?

イギリスでは、スーパーに行けば、365日、同じ食材が同じ場所で売られています。ある意味、便利は便利ですけれど、旬のおいしさとか、そういったものを感じることは少ないですね。逆に、日本というのは、そういうことを大事にしている国だと、海外に行ってみて、はじめて気がつきました。 ある時、レシピをブログにアップした際に、おくらを使った料理を紹介したことがあったんです。イギリスでは、それが1年中、手に入るものですから、真冬の時期にオクラを使ったレシピを出したら、日本の読者の方が、「すごくおいしそうですね、だけど、夏になったら作ります!」って、コメントをくれて、あ!日本って、おくらの旬は夏だったって、思い出しました。自分自身も、向こうにいると、そういう感覚が段々鈍っていたんですね。

 イギリスで高まる「和食」ブーム

Qイギリスで料理教室を開催されていて、イギリス人の主婦の方に料理を教える機会も多いそうですが、日本人との違いは何かありますか?

手先の器用さが違いますね。あとは食感など、あまり気にしない人が多いかもしれません。日本人だと、野菜をゆですぎることはないじゃないですか。ゆで野菜だったら、ゆで時間にすごく気を配っていて。イギリスでは、いまでこそ、少しは気を使うようになりましたが、昔は、人参などが、本当に柔らかくて歯応えがなく、ビタミンもすべて破壊されているような、野菜が添えられていました。日本人が食べると、これは野菜なの?って感じで、色も形もかろうじて残っているけど、“ゆでゆで”になっているから、香りがない。あとは、灰汁をとったりしない、煮込み料理も灰汁を放っておく。ちょっと取るだけで違うじゃないですか。香りを感じたいというような発想があまり無いんですよね。あとは舌触りとか。五感を駆使して、楽しむのは日本人ならではだと思います。

ただ、イギリス料理も素朴でいいところもあります。家庭によってそれぞれの味があるんですよ。同じものを食べても、イギリス人なりにおふくろの味とかがあって、それはそれでおいしいものがたくさんあります。

エリオットゆかりさん2

Q最近では、エリオットさんのように、海外で日本の食文化を発信される方が増えてきた影響で、「和食」に対する関心が世界的に高まっていると聞きます。

年配の人は、いまでも和食イコール寿司、日本人は毎日寿司を食べていると、誤解しているようなところはありますが(笑)、もう少し若い世代では、興味のある人がすごく増えていて、店もどんどん増えています。ロンドンにできた「WASABI」というお店では、おにぎりを売っていて話題になっていましたし、「WAGAMAMA」というヌードルショップでは、ラーメンや餃子もあったりするのですが、一番の人気メニューが「チキンカツカレー」なんですよ。メニュー表記も日本語読みで「チキンカツカレー」って書いてあって、それをイギリス人みなさんが英語なまりでオーダーしているのがすごく面白くて(笑)。それで、この前、娘の誕生日の時に、そんなに浸透しているのなら、イギリスの子どもも、日本のカレーを食べられるかもしれないと思って、「チキンカツカレー」を家で作ったら、普段みんな野菜などを残すのですが、その時は、全員が食べ切って。カレーっていうのは日本のこどもも大好きですけれど、イギリスでもこんなにウケるんだってうれしくなりました。イギリス人が日本に来たらどんなお料理でもみんな美味しいって感動すると思います。

エリオットゆかりさん3

 海外の人にも、もっと「旬」を楽しんで欲しい

Qいよいよ4月になり、春になりました。日本の「旬」の食材に思いを馳せることも多いのではないですか?

そうなんですよ!日本の春は旬な野菜が多いですよね。イギリスには、ふきのとうや菜の花などないですからね。ブログをやっているので、いろんな日本の他の方のブログを拝見すると、皆さん、旬にあわせた食材を美味しくご紹介しているのが目に付きます。例えばタケノコのとれたてのものを、お米のとぎ汁でゆでるところからやっているのをみると、心の底からうらやましい。私は缶詰しか手に入らないですから。だから、旬の野菜の味がどんなものだったかも忘れかけているかもしれません。日本に来たときに、食べると、ああ、これってこんなにおいしかったんだなって。香りが豊かで、その食材を活かすための工夫があって。本当に、イギリスに行って、日本の食文化に対するありがたみが倍増しています。

エリオットゆかりさん4

Q海外の人にも、「旬」の素晴らしさに気づいて欲しいですよね?

はい。ただ、イギリスでも少しずつ、旬というか、新鮮な野菜を新鮮なうちに食べたいという機運が高まっていると思います。ファーマーズマーケットなどがすごく増えてきていていますよ。ブログでイギリスは食に関する季節感が少ないので、すごく日本が恋しいということを書いたら、ファーマーズワイフというペンネームの人から、コメントを頂き、あなたは、「マーケットに行ったりしないのですか?生産者として大事に野菜を育てている人はたくさんいます」って。たぶん、その方はイギリスの農家に嫁いだ方なのでしょうね。こうした発言で傷つけてしまったことを反省し、その出来事で、イギリスにも野菜を大事に育てている人がいることを知りました。野菜を育てている方は、自分が収穫するから、いつが旬とか分かると思うのですが、それが結局、みんなに伝わっていないんだなってことに気がつきました。作っている人は、収穫しているから、おいしいものは、すぐ、はやく食べて欲しいという気持ちは絶対にある。それをスーパーなどに卸してしまうと、流通の間に、旬が、うやむやになってしまう。だから最近では、ファーマーズマーケットが増えてきていて、そういったところで旬という感覚が広まってきていると思いますね。

イギリスファーマーズマーケット写真

Q今後は、料理研究家として、どんな思いで、活動をされていくのですか?

せっかくイギリスで料理の仕事に関わらせて頂いているので、イギリスと日本の食をつなぐ橋渡し役になりたいです。イギリス料理も今は、昔と違って、本当においしいものはおいしくなってきているし、バリエーションも豊かになってきているので、イギリス料理の魅力を日本人にも知ってもらいたい。イギリスの人には、本当に、それこそ、旬みたいに、新鮮なものを新鮮なうちに楽しむという日本の食文化のエッセンスをもっともっと取り入れていって欲しいと思います。

Writer : TAICHI UEDA / Photographer : SATOSHI TACHIBANA
※掲載されている一部の画像については、取材先よりご提供いただいております。

プロフィール

エリオットゆかり(料理研究家)

イギリス在住して10年以上。2002年に趣味がこうじて、和食&アジアン料理を中心としたケータリングビジネス「ZEN」をはじめる。イギリスで流行しているホームパーティーで、見栄えのするパーティー料理からテーブルスタイリングまで手掛ける。自宅でも料理やテーブルコーディネートの教室を開催。日本においてレシピ開発・イベント出演・企業とのコラボレーションなど多方面で活躍中。